「仕返し」はチームワークに有効とは言えない 「フリーライダー」を更生させる戦略はある?
このように、自分にとって最も合理的な選択を取ろうとすると、必ず自白することになる。では、繰り返しこのゲームが行われたとき、最も損を減らすための方法は、必ず自白することだろうか?
実は、囚人のジレンマゲームは、コンピュータプログラム大会の定番で、1984年の初めての開催以降、世界中でプログラムが競い合われている。長年王者に君臨したプログラムは非常に単純なもので、それが冒頭に上げた「しっぺ返し戦略」である。
しっぺ返し戦略は、基本的には相手を信じて黙秘し、裏切られたときにだけ自分も自白して裏切る作戦のことだが、実際のプログラムは、「最初は黙秘を出し、2回目以降は相手が1つ前に出した手を“猿まね”する」ようにだけ書かれた、たった4行のプログラムだった。
この行動パターンは前述の単純互恵行動そのものであり、恩返し&しっぺ返し戦略と言ったほうがよいかもしれない(仇の猿まねはしっぺ返しだが、恩の猿まねは恩返しなのだから)。
このプログラムどおりに動くと、相手が黙秘を続けるのであれば自分も黙秘を続け、延々と協力する(刑期はお互いずっと2年の恩返しが続く)。そして、もし相手が途中で抜け駆けして自白するならば、次回は自分も裏切る(しっぺ返しをする)。相手が自白を続けるのであれば自分も自白を続け延々と裏切り合う(刑期はお互いずっと5年のしっぺ返しが続く)。思い直した相手が黙秘する方針に変えるのであれば、次回からは自分も協力する。
しっぺ返し戦略は進化型のゲームにおいても実績がある。よい成績を出したプログラムの数が増えていくようにする「進化ルール」を使って行われたシミュレーションでも、最も数が多くなったのはしっぺ返し戦略だった。
ここに挙げたようなしっぺ返し戦略の実績から、「しっぺ返しがあらゆる協力の発生と成長の根幹となる原理だ」、といわんばかりの主張を行う専門家も出てきたというわけである。
しっぺ返し戦略は本当に強いのか
しかし、これはコンピュータプログラムやシミュレーションだけの話ではないのだろうか? 決められた行動を繰り返す機械相手と人間相手では、違うのではないだろうか?
確かに、「恩返しや相手の抜け駆けにうるさい人(そして時にしっぺ返しをする人)」は、多いと思う。しかし、そうした同調にこだわる人が、競争社会で有利になったりすることがあるのだろうか?
先に裏切り(抜け駆けをして)、しっぺ返しをされたとしても、そのまま裏切り続ける戦略がどれほど有利かは、牛丼やハンバーガーの価格競争を見ればわかる。利益を多く得るのは先に裏切ったほうで、しっぺ返しをしたほうではない。
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