なぜお受験では「紺のスーツ一色」になるのか 共働き親から見たら「パラレルワールド」

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もう1つの名門(附属系)幼稚園の魅力は、幼稚園にさえ入れてしまえば、高校や大学まで内部進学ができることだ。そこに魅力を感じる親も多い。

「幼稚園受験だから子どもがここの園が好きとか、多少の主観はあるものの、結局、(その環境がいいかどうか)判断をするのは親じゃないですか。附属の学校に入れることで一定の環境は与えてあげて、子どもが(このレールから)出たいとかそういう意思を持つ年齢になったときは、子どもの責任で判断させてあげられればいいかなと。子どもの可能性を潰さないのが親の責任ではないかと夫婦で話して、幼稚園受験をさせようという話になったんです」

ある程度の教育が受けられる環境を大学まで確保できる。それを魅力的に感じる親は少なくないだろう。加えて、「夫は子どもには何でもいいけどスポーツをやってほしいと思っていて、そのときに3年ごとに受験にとらわれると、中途半端になってしまうと言います」。つまり、スポーツなど別のことを優先させるために、中学受験、高校受験、大学受験を経験させたくないという理由もある。

幼児教室でそろう足並み

こうした名門校に入れるためには、受験のための幼児教室に通わせる親も多い。前述の2児の母親の場合は、長女は3カ月、次女は半年、幼児教室に通ったという。

「娘の通っている園の倍率は3倍くらいでした。幼稚園受験は親の受験とも言われて、教育方針とか、自分たちの子育ての考え方を面接で聞かれるので対策します。子どもが見られるのはしつけとか人とのかかわりとか常識的な範囲なので、対策しても(今後生きていくうえで)何も無駄はないんです」

2歳児が通う幼児教室も取材をしたことがある。一見、子どもたちは楽しそうに遊んでいるだけで、保育園の風景とそう差は感じない。ただ、“どこの幼稚園も考査で子どもを親から離して自由遊びをさせてみて、きちんとほかの子と遊べるかどうかを見ている”とのことで、特に自宅で母親といる時間が長い子どもが、親から離れて遊ぶのに慣れる場所として利用している側面もあるのかもしれない。

集団でやる体操などの時間もあり、前述の母親が言ったように低月齢の子は少し出遅れているように見えたが、先生たちが誉めたり手をつないで一緒に寄り添うことで、遊びや体操などといった基本的な動作に慣れていく。保育園と違うところがあるとすれば、先生たちが「できているかどうか」を逐一確認しているようにみえたこと。こうして、子どもの「できること」の足並みが揃っていくように思えた。

この様相は、小学校受験では、はたからみるとさらに特殊な状態になっている。私の知り合いは娘が不合格になったのは「くまさん歩き」ができなかったからに違いない……と嘆いていた。実際にそれが不合格の要因だったのかはわからないのだが、筆者はそもそも「くまさん歩き」がなんであるか自体が怪しい。

本来、幼稚園年長の子どもたちが全員「くまさん歩き」がなんであるかがわかって、それが指示どおりできないといけない、そんなことがあるはずがない。でもほかの子が全員できていたら? 典型的な出題に対して応じられるように皆が対策を始める。そしてそれがさらに、自己産出的に「できないといけない」ことになっていく可能性はある。

幼稚園や小学校の受験では、多くが幼児教室などで「対策」をして挑む。選抜基準が不明確な中で、ここでの「言説」は親の一挙一動に影響する。ある国立大学附属の小学校受験を「ダメ元」で対策ゼロで受けに行った母親の話。

「待合室に入ったら、何人かの親は太宰治の『人間失格』とか文学作品を開いているし、子どもたちは大抵あやとりしてるんですよ。塾で待合室での様子が評価されるから、文学作品を持っていくようにと言われたんですかね……」

たまたま暇つぶしの本が太宰治だったのかもしれない。それでも、皆がしているから。「そんなこと」だからこそ、「そんなこと」で落とされたらいやだから。こうして、実際にそれが合格判定に使われているかどうかはさておいて、あるべき姿、規範となり、「全員が紺」「待合室では文学作品」の風景につながるのだろう。

エスカレーター式は共働き家庭にも魅力

こうした幼稚園受験組はほんの一部の層の話であり、さらに親の関与が大きいこともあり共働き家庭ではまず選択肢に上がらないのではと思っていた。しかし、取材していくと、共働きだと中学受験を親子で乗り越えるのが厳しいと考えるからこそ、エスカレーター式に内部進学できる名門幼稚園に行かせたいと考える親も確実にいる。

ある女性は、自身が附属幼稚園からの女子校出身者。共働きの会社員だが、実家のサポートもあり、娘を受験させることにした。

「母校に入れたかったのは、エスカレーターで上(高校や大学)まで行けるし、これからも共働きの生活が続くなか、中学受験のサポートができるか不安もあったから。私の母とも相談して、共働きだからこそ附属にいれるほうが、ある程度学校に(教育を)任せられると思ったんですよね。母校だったら勝手も知ってるから、母親の私もラクなんじゃないかと」

ちなみに、こうしたケースを何人か取材したが、親のどちらかが名門幼稚園や小学校からエスカレーター式の学校に進んで、そのルートを本人の実家が誇りに思っている場合、実家が「自分の子どもの母校に孫が行くのであれば、全面的にサポートする」と言い出したという場合が多かった。

そもそも、幼稚園受験は、このオンライン時代に願書受け取りも受験も平日昼間の決められた時間に現地に何回も出向かないといけない仕組みだったり、入園後も親の関与が多く、決して共働き向けではない。祖父母のサポートがないと共働き夫婦には立ち向かいにくい。

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