「ハプニング」が前提のキャリア作り 岡崎仁美「リクナビ」編集長×森山たつを対談(3)
森山:やはり大手企業のようにたくさんの人が群がるところに行ったら、競争が激しいということがわかっているのでしょうね。メガバンクなんかに入ったら、『半沢直樹』みたいに、みんなで倍返しし合っている世界で戦うことになるかもしれません(笑)。
他方、海外で働いている人の数はまだまだ少ないですから、そんな内輪の小さな戦いをしている場合じゃない。だから海外に出れば自分が活躍できる可能性は大いにあるし、仕事の充実度は高い気がします。
岡崎:世界で働くことは、最初はキツいかもしれませんが、自分を差別化できる試練だという覚悟は、学生の中にもあると思います。
森山:今の学生はそこまでちゃんと考えているんですね。途上国だと、会社の内部で戦って生き残るというよりも、新しい市場を切り開けるか否かという世界なので、日本国内とは戦い方がまったく違うんですよね。用意されたパイを取り合うのではなく、自分でパイを作るための戦いですね。
社内で潰し合っているよりも、そのほうが風通しがいいというか、健全で気持ちがいい戦いです。自分が頑張ったことが、それこそお客さんに倍返しされる世界ですから(笑)。そういうところで働くのは精神衛生上いい気がします。まあ、私が大学生の頃は、仕事に対してそんなところまで考えていませんでしたが。
岡崎:そうした意識には、親の影響もあると思います。今の大学生の親の世代はだいたい50歳前後。彼らはバブル期に入社して、その後、国内どっぷりのキャリアを歩みつつも、部下や若手に海外経験をさせる人事を見てきたと思うのです。だから、「せめて自分の子供には、海外での経験を早くから積ませたい」という思いが、子供たちに反映されることも少なからずあると思います。
試してから選び取って働く「試職」という動き
——今年、リクナビが発表した2013年の就職領域トレンドワードは、「試職」だったそうですが、その意図はどこにあるのでしょうか?
岡崎:今、早期離職ということが非常に話題になっています。理由はさまざまあって、仕事が厳しくて心身ともにボロボロですという切実な声もありますし、現実的に異常な環境に置かれている人も、中にはいらっしゃるでしょう。一方で、トンネルをくぐり抜けたらこんなステキなことが待っていた、ということを経験する前に、トンネルの入り口付近で引き返してしまう若者が少なからずいるように思うのです。
服を買うなら試着、車を買うなら試乗してから購入するのが当たり前なように、仕事を選ぶうえでも試せるプロセスがあれば、それが自分の進むべきトンネルかどうか決断できるのに……。そういう意味を込めての、「試職」を提案しています。
調べてみると、試職に近いプログラムを採用プロセスに導入している企業も、多数あることがわかりました。企業は、よりよい採用を実現するために、先手を打って新しい選択肢を用意しているけれど、学生がそういう手法の存在を知らない。志望先の会社がたまたま採用プロセスの中で、試職を用意していたというケースがまだ多いのです。だから、試職させてくれる企業があると知ったうえで、会社選びをしてほしい。そんなムーブメントを作りたいと考えました。