坂根:そこで、その工場だけは人員を増やさず、生産能力も最低限にとどめました。ほかの工場が積極的に投資を進めているときに、その工場の商品は注文に生産が追いつけない部分はタイや日本の工場から持ってきていました。新規の投資をしないので設備も古くなり、労働者は高齢化していって、まさにかつての日本の工場のようになっていきました。
その経験を踏まえて、その工場も今ではアメリカ流に人員整理をするようになりましたが、この話からおわかりいただけるように、日本の雇用慣行をアメリカで適用すると、競争力を失うことが明らかなわけです。何を言いたいかというと、この国が抱えている問題として、日本的な雇用慣行からきた「総花・平均・自前」志向が、企業や大学を弱くしているということです。
「総花・平均・自前」志向が何を引き起こしたかというと、「大学も企業も入るのが難しいところが優秀なところだ」という発想を生みました。そして、優秀なところには平均点が高くないと入れないわけですから、みんなが一芸を伸ばすのではなく、平均点主義になって人と同じことをするようになってしまったのです。そして、何でもひととおりのことは自前でできるように思い、企業も大学も総合志向になり、かつクローズドな組織になっていきました。
日本を代表する自動車産業でも昔からメーカーがたくさんありますが、かつてはみんな違うことをして切磋琢磨してきました。ところが、今ではみんな電気自動車、自動運転といった同じことで勝負せざるをえません。
ほかの産業も同じです。よく「この国の労働力は逼迫している」といわれていますが、欧米に比べて国全体として、ムダな事業や仕事に雇用をたくさん抱えています。その部分を整理することができれば、新たな労働力を生み出すことができます。その過程では苦しい思いをする企業や労働者も出てくるでしょう。しかし、そこをうまく対処できれば、日本が再浮上するチャンスになると確信しています。
国を挙げ少子化対策と高齢者・女性の労働力を活用せよ
中原:政府は人手不足を受けて、実質的な移民の受け入れを始めるようです。確かに、短期的には移民に頼らざるをえないのは仕方がないのかもしれません。しかし私は、長期的には弊害のほうが大きいと考えています。
というのも、急速に進むIT(情報技術)やAI(人工知能)を活用したオートメーション化の流れのなかでは、人手不足は2020年代半ばには解消される可能性が高いからです。日本人が移民と共生する覚悟が十分にないのであれば、拙速な移民の促進はやめたほうが賢明なのではないでしょうか。
坂根:私も同じような心配をしています。おそらく業界内で競争力のない企業ほど外国人を安い賃金で雇いたいという願望が強いでしょう。ということは、同一労働していても外国人を日本人より安く使うといったことになり、結果的には、外国人労働者から見てこの国の魅力はなくなり、優秀な外国人労働者までもが日本に来ようとは思わなくなっていくでしょう。
むしろ本当の労働力といった意味では、国を挙げての少子化対策と高齢者や女性の労働力を活かすことをまず第一に考えるべきです。簡単に移民の受け入れに逃げてはいけないと思っています。無駄な雇用に手をつけないで移民に頼っていては、日本にせっかく変われるチャンスがきているのに、そのチャンスを逸してしまうことになります。
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