プロレスも格闘技も「猪木」に行きつくワケ タイガーマスクと呼ばれた男が残した功罪
今年7月に『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』を上梓したノンフィクション作家の田崎健太氏は同書で佐山のこれまでの歩みと総合格闘技が日本に誕生するまでを、3年にも及ぶ綿密な取材と膨大な関係者の証言から520ページの大著にまとめた。もう十分関係者に会い尽くしたであろう田崎氏に「今、会っておきたい男はいますか?」と聞いたところ、少し考えた後、こう返事がきた。
「青木真也さんですね。佐山さんは理想を掲げて、格闘技を作り上げた。ただ、その過程で置き忘れたのが“ビジネス的”な発想。青木さんの著作『空気を読んではいけない』を読むと、自分の売り出し方やプロモーション戦略をよく考えているのがわかる。面白いのは、青木さんの師は中井祐樹さん。中井さんは佐山さんの弟子です。青木さんがこの本をどんなふうに読んだのか、聞いてみたい」
青木真也氏(35)は修斗やPRIDE、DREAMを経て現在はアジア最大のMMAイベント、ONEを主戦場にしつつ、プロレスにも時々参戦している。2人の話は「格闘家とカネ」「青木真也は中井祐樹の弟子だったのか」「青木真也はプロレスをどう見ているのか」、そして「アントニオ猪木の影」といった話に及んだ。
現代は格闘家もモノカキも「売る努力」が求められる
田崎:格闘技の選手というのは、文字どおり命を懸けて戦っています。UFC(世界最高峰の格闘技興行)に出て、勝ち続ければ目もくらむような大金を手にできる。しかし、日本国内の興行だとびっくりするほど、ファイトマネーは安い。
青木:選手はエージェントを入れるようになっているので、そこでギャラを取られるのがデカい。多くの選手が搾取される側になってしまいました。そこがもったいないです。
田崎:みんな強くなることには熱心なのですが、自分をビジネスの対象というか、売り物にするのが下手。だから青木さんは実験的というか、とにかく面白い存在だと思ったんですよね。そんな格闘家はほかにいないじゃないですか。
青木:そう言っていただけてうれしいですね。選手って試合が決まると、その当日の白黒ばかり考えていて、プロモーションをしないんですよ。プロモーションをしない試合って、ファイトマネー以外の良いことがない。人に見てもらえるように事前に一所懸命“焚(た)く”ことをしないとダメなんですよ。
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