プロレスも格闘技も「猪木」に行きつくワケ タイガーマスクと呼ばれた男が残した功罪

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田崎:『真説・長州力 1951-2015』で、ぼくは長州力を描きました。長州さんは韓国代表のレスリング選手としてミュンヘンオリンピックに出場している。運動能力、強さは破格です。しかし、その長州さんはプロレスを理解するまでに7年かかりました。その後、長州さんは仕事としてプロレスラーをやり続けている。一方、佐山さんは、タイガーマスクとしてほかのレスラーが追いつけない高みにまで一気に登った。ある意味、佐山さんはプロレスラーとして成功するのに苦労はしていない。そして格闘技を作り、またプロレスとつかず離れずの関係にある。プロレスって面白いな、と思うわけです。そして、青木さんとこうして対談をしたら猪木さんの名前がポンと出てくる。

青木:最後はプロレスに戻るんですよ。ファイトスポーツをやればやるほど、プロレス的というか、プロレスに戻っていく。アスリートって20歳ぐらいで出てきた時、実力主義の権化として登場するのです。とにかく上に向かっていき、「実力だったらオレのほうがある。余計な物語なんていらない。試合の15分間だけがすべてだぜ、ベイベー」というところからスポットライトを浴びるアスリート人生が始まっている。35歳になると物語を語り始めたり、キャリアを語り始めたり取り組みを語ったりする。サッカーでも野球でも同じで、これってプロレス的じゃないですか?

田崎:青木真也という人間がどういう生き方をしてきたか、というのを観客は知りたいわけです。現在51歳で現役のプロサッカー選手を続けるカズこと三浦知良さんは今のレベルで見ると、巧い選手でもないし、足も速くない。ではなぜ、彼を見るために人はスタジアムに行くのか。それは彼の生きざまに共感しているからです。青木さんもプロレスをやること、猪木さんとかかわったことで、化学変化が起こり、プロレス的な発想、行動ができるようになったのではないかと思っています。

青木:猪木さんは、「リング上で起こっていることがすべて。それは(事前の取り決めを)ひっくり返してもいい、起こったことがすべて」という理屈で教えていました。でも、プロレスと対をなすと一見思われがちな格闘技もそうじゃないですか。リング上ですべてのことを出せ、もめ事もリング上に持ち込め、というのは結局猪木イズムですよね。だからこそ、格闘家としても、プロレスを学習できたのは大きい。

「1試合のファイトマネー9万円」という苦い現実

田崎:青木さんの本を読んでいると、もともと高校・大学でやっていた柔道は窮屈なイメージがあったように感じました。修斗を始めてから少しは楽になりましたか?

青木:楽にはなりましたが、やっぱりつらかったですね。先がまったく見えない。何しろ出口が見えないんですよね。

田崎:出口は見えないですよね……。世界チャンピオンになってもお金がない未来が見えますもんね……。

青木:それがキツかったですね。修斗の時、横浜文化体育館で(修斗の顔でもある)桜井“マッハ”速人と試合をし、源泉徴収を引いてファイトマネーが9万円でした。

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