貧困女性が「世帯収入1000万円」を叶えた理由 生活保護費で1円パチンコを打つ日々だった

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世帯年収1000万円以上は全世帯の10パーセントほどだ。そして、生活保護受給率は1.66%(厚生労働省「被保護者調査」平成30年5月調べ)なので、底辺から上層まで飛び級で上昇したことになる。結婚や就業は男女ともに階層を変えるチャンスだが、底辺から上層というケースは珍しい。

「2015年に離婚して、同じ時期に会社も辞めちゃった。それまで何度も転職は経験しているし、別にいつ辞めてもいいやと思って軽い気持ちで退職した。悪いことが重なるもので、もう1つ、その時期にカラダを壊しちゃった。拡張型心筋症って診断されて、メンタルのほうはピンピンしているけど、内科なので無理がきかない。療養している間に医療費であっという間に貯金がなくなって、貧困状態になった」

あっさり「生活保護受給者」に

拡張型心筋症は治る病気ではない。転職できる状況ではなく、数回の入退院を繰り返した。入院費は一度に15万~20万円は請求される。無収入でお金が出ていくばかりになり、半年間で貯金150万円はきれいになくなった。

「電気もガスも止まって、食べ物を買うお金もなくなって、どうしようってときに生活保護が浮かんだ。すぐに某市の生活保護支援課に行って申請した。なぜかあっという間にOKでした。水際作戦とか、断られるとか覚悟して行ったけど、即受給です。家賃込みの保護費13万円をやりくりして、病気を治して、就職するなら、してくださいって話をされた。生活保護は生活費をもらえて、医療費も完全に無料で、本当にすごい制度だなって思いました」

日本は国民に健康で文化的な最低限度の生活を保障している。吉村さんは貯金が尽きてすぐに行動して、困窮状態から即抜けだすことができた。

生活保護受給が認可されたのは、思い立った翌日だ。窓口の担当者に電気とガスが止まっている状態と、医者の意見書を持って入退院を繰り返している近況を伝えただけである。

「当時、離婚した元主人が借りた部屋にそのまま住んでいた。生活保護の住宅手当の上限金額を超えていて、家を出なきゃいけなかった。それで近所で5万4000円の部屋に引っ越すことにした。じゃあ、ここに住みますって言っただけで、役所は全部お金を出してくれた。生活保護受給率が高い地域ではあったけど、なんでも大丈夫、大丈夫ってさっくり通っちゃう。しかも、すぐ。東洋経済オンラインの貧困記事を入院中に読んでいて、最初は簡単にはいかないかなって思っていた。けど、笑っちゃうくらいあっさり生活保護受給者になれました」

申請して認定が下りるまで10日間くらい。担当者から10日分の生活費1万2000円を現金で渡された。1万円札を握り締めて「死ぬことはない」とホッとした。帰りに5キロのお米と、値段が安い野菜と納豆を買って戻った。食べ物や交通費すらなくなった本当の困窮状態は、せいぜい半日くらい。外に出るとお金がかかる。生活保護に支えられながら、部屋に籠り、なにも考えないでのんびり暮らす日常となった。

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