視覚なしで戦うボール競技の知られざる世界 大人になって視力をほぼ失った彼女の戦い方

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乙武:そこはバレーボールをやっていた頃との大きな違いですよね。プレイヤーの初期設定が等しく同じであるというか。ちなみに、ゴールボールではどのような能力が必要とされるんですか?

小宮:ほかのスポーツは、ボールの場所、相手や仲間の動きなどを目で見て情報をキャッチし、動くことができますよね。でも、ゴールボールは視覚から入る情報が一切ありませんので、いかに聴覚を研ぎ澄ますことができるかが最大のポイントとなります。そして聴覚からの情報を瞬時に判断する能力。そのため、わざと逆サイドから音を立て、相手を撹乱するような駆け引きも行います。もちろんほかのスポーツ同様、瞬発力や持久力などの身体能力も求められます。

乙武:面白いですね。ということはトレーニングによって体を鍛えるだけでなく、冷静な判断力も求められてくるわけだ。

目に見えなくてもコート上の状況は把握できる

乙武:小宮さんの次なる大きな目標は、当然、東京パラリンピックということになると思いますが、日本が世界を相手に戦ううえで、たとえば体格面などはハンディにならないのでしょうか?

小宮:やはりほかの国のプレイヤーと比べて、日本の選手は小柄ですから、パワーの面で劣ります。また当然、縦にも横にも大きいほうが、ゴールを守るうえで有利です。だからどうしても、日本選手は手先、足先を目一杯伸ばして、ボールを止めるスタイルになりますね。

聴覚を研ぎ澄ますことができるかが最大のポイントになる(撮影:友清 哲)

乙武:それにしても、いくら中に鈴が入っているとはいえ、音だけを頼りに正確にボールをキャッチしたり投げたりできるものなのでしょうか。想像を絶します。

小宮:音のほかにもう1つ、コートのラインにはタコ糸が入っていて、触れば自分の位置がわかるようになっているんです。これを元に、今どの選手にボールが当たったかを共有して、18メートル×9メートルのコートのどこにボールがあるかを探ります。たとえば、「ライト(右)の選手に当たったということは、左からボールが来るぞ」と体勢を整えたりするんです。

乙武:うーん、聞けば聞くほどすごい。目で見えていなくても、選手の皆さんは頭の中で状況とボールの位置を、つねにイメージできているんですね。

小宮:ただ、ボールは意外と重たいので(1.25キロ)、体や顔に青あざを作ったりすることもよくありますけどね(笑)。

乙武:たとえば野球では、必ずしも速球派の投手だけが活躍できるわけではなくて、中には球速は遅くても球の出所が読みづらくて打たれない投手というのがいます。握ったボールがいつ指先から離れるかがわからないと、バッターにとってはタイミングが取りにくいんですね。ゴールボールでもそういうタイプの選手は存在しますか?

小宮:それはありますね。スローする際、投げ出しの音がわからないと当然取りにくいですし、遠心力をつかって回転して投げると、最後の最後まで音が消えたりするんです。この場合、球速が遅くても予測しづらいので取りにくいんです。

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