視覚なしで戦うボール競技の知られざる世界

大人になって視力をほぼ失った彼女の戦い方

乙武:なるほど、そこでもまた1つの駆け引きが発生するわけですね。本当にゴールボールは思っていた以上に奥の深い競技であることを痛感させられます。

パラスポーツ振興のカギはゴールボールにあり!

乙武:視覚障害者は晴眼者よりも聴覚が研ぎ澄まされているというのはよく聞く話ですが、たとえば生まれた時から全盲の選手と、小宮さんのように後天的に視力を失った選手とでは、選手としての特性に何か差異は生じるものでしょうか?

小宮:これはケースによってさまざまで、たとえばある程度は見えている弱視の選手の場合、コートではアイシェードで完全に視覚を遮るものの、練習の際には映像から技術を学ぶことが可能です。これは大きな強みですよね。それに対して全盲の選手は、コーチの言葉を自分の中でイメージに落とし込む作業が必要になります。

乙武:それはやはり、アスリートとして不利ですよね。

パラスポーツの普及にあたって、ゴールボールに触れてもらうのが最適ではないかと思っている(撮影:友清 哲)

小宮:でも、私の場合は20歳くらいまでは見えていたわけですから、先天的に全盲の選手と比べれば、まだイメージしやすいんです。先ほどの投手の例にしても、野球がどういうものかは記憶していますから。

乙武:すると有利・不利で言うと、現時点で少し見えている選手がやはり有利で、過去に見えていた時代がある選手に次いでアドバンテージがあり、先天的に見えていなかった人にはどうしても不利が生じる、ということになりますか。

小宮:ところが、これも一概には言えないんです。物心ついた時から目が見えていない選手は、最初から耳を頼りに生きてきた分、私たちには聞き取れない音まで聞こえていることがありますから。何が強みに働くかはわからないですね。

乙武:なるほど……! それは非常に興味深いですね。つまり、小宮さんは晴眼者の私より聴覚の感度が高いかもしれないけど、先天的に全盲の選手よりは劣る可能性がある、と。

小宮:そういうことになります。たとえば晴眼者のほうが突然アイシェード(競技用の目隠し)をしてプレーしても、普段とまったく違う投げ方になることが珍しくありません。それは視力のない状態に慣れていないため、いくら耳が聞こえていてもその情報を処理しきれないからです。そういうギャップをトレーニングでどう埋めていくか、という世界なんです。

乙武:パラスポーツの普及にあたって、私はゴールボールに触れてもらうのが最適ではないかと思っているんです。最近では大学のサークルで健常者が車椅子バスケのチームを結成して競技を楽しむといった傾向も出てきていますが、車椅子の操作は高い技術と修練が必要ですし、そもそも福祉機器である車椅子を健常者が使うことに否定的な声を上げる人がいることも事実です。その点、ゴールボールはさらに手軽に健常者が体験しやすい、ハードルの低い競技だと思うんです。

小宮:たしかに、ゴールボールはアイシェードをつければ誰でもプレーできますからね。実際、日本の大会は晴眼者の参加も認められていますから、可能性はあるのではないでしょうか。

乙武:なんと、国内大会では健常者に門戸を開いているのですね。ゴールボール業界は進歩的だなあ。ますますこの競技を1人でも多くの人に知ってほしいと思うようになりました。そのためにも、2020年の東京パラリンピックでは日本チームの躍進が不可欠です。ご活躍を期待しております。

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