安心・満足な出産はニュージーランドに学べ 現役女性首相が産む国で活躍する「助産師」

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ニュージーランドでは出産費用は国持ちなので、助産師たちは国に申請して既定の報酬を受け取る。その金額が、時給に換算してみたら、わずか8ニュージーランドドルとなっていた。執筆時の為替レートで日本円に換算すると640円ほどだ。これは、アーダーン首相にとっては前の政権から引き継いでしまった負の遺産。アーダーン政権になってから予算のわずかな増額はあったのだが、助産師団体はこれでは問題は解決しないと言っている。

日本もニュージーランドから多くを学べる国のひとつ

アーダーン首相がアップした助産師とのツーショット写真には、助産師の報酬引き上げの早期実現を求めるコメントがたくさんついた。女性たちは、首相も大満足な素晴らしい出産ケアを誰でも無料で受けられる国に住んでいることを改めて喜び、その制度が崩壊してしまうかもしれない危機感を書き込んだ。

ニュージーランドの助産師が最も時間を費やしている業務は、産後の家庭訪問らしい。産後6週間の間に最低7回も訪問に行かなければならないので、助産師は大変だ。でも親にとっては、夜泣きに悩み、ふらふらの身体で慣れない育児をするこの時期に信頼するLMCが何度も家に来てくれるのだから、その値打ちは計り知れない。もし、このシステムが壊れてしまったら、これからニュージーランドに学ぼうとしている他の国にとっても大きな損失だ。

アーダーン首相は、報酬引き上げに着手するのか。首相の子どもは女の子で、名前はネーヴといい、明るい(bright)、放射する(radiant)という意味があるらしい。今回の出産が、この子の名前の通り世界に放射される明るい光になって、子どもを産みやすい国を増やしてほしいものだ。私は、日本もニュージーランドの出産システムから多くを学べる国のひとつだと思っている。

(取材協力:ハナ・モリ・ロバートソン/リサーチコンサルタント)

河合 蘭 出産ジャーナリスト

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かわい らん / Ran Kawai

出産ジャーナリスト。1959年東京都生まれ。カメラマンとして活動後、1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書に『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。

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