一方、ニュージーランドでは、共通ガイドラインの下で病院と開業助産師が一体になっており、誰もが安心して自分が選んだ親しい開業助産師の下で産むことができる。まさに「安心」と「安全」の両方を最大限にしたシステムと言えるだろう。
出産シーンでの助産師の活躍は、今や先進国の大きなテーマになっている。世界的に産科医は不足しているし、女性たちも親身に相談に乗ってくれる専門家を求めているからだ。
助産師の歴史をひも解くと、自宅出産が普通だった時代には世界中で助産師がお産の介助を担っていた。しかし近代的な病院で産科医と産むスタイルが一般化すると、多くの助産師は病院に就職し、看護師と区別がつきにくい存在になっていった。
しかし20世紀後半、欧米を中心に患者の人権運動やナチュラル・バース・ムーブメントが高まり、病院の出産には医療の過剰使用や、「分娩室に家族を入れない」などの非人間的な面があると言われるようになる。助産師という職業が再発見され、期待が高まっていったのは、こうした傾向への反省からだった。
助産師主導の出産のメリットは主に2つ
「助産師と産みたい」と言い始めたのは自宅でのナチュラル・バースを希望する女性たちだったが、しだいに病院でも「家族中心ケア」「出産のヒューマニゼーション」といった言葉がよく使われるようになっていった。
激動のムーブメントから歳月が流れて、今では、助産師主導の出産を検証した学術的な研究も進んだ。研究が明らかにしてきたメリットは主に2つである。
ひとつは「母親の満足度が高い」ということだ。出産方法は、従来は死亡率など産科学的な面からのみ評価されてきたが、最近は満足感という新しい指標も大切だと考えられるようになった。これは、出産を社会的にとらえる視点と、女性の人生や子育てへの影響まで考えるようになった視野の広がりの表れである。自分の出産体験をポジティブにとらえられるかどうかが、「産後うつ」にかかわりがあるという報告は多い。
ふたつめに注目されるのは、費用効果だ。役割分担を明確にし、助産師ができることは助産師が担って、人件費の高い医師は危機が迫った場面にかかわるようにすれば医療費は下がる。出産の費用を国が負担する国々にとっては、限られた予算をどう使えばよいかは切実な問題だ。産科医の仕事が軽減されれば、産科医不足の有効な対策にもなることは言うまでもない。
人件費が下がっても安全性が損なわれては元も子もないが、医療連携がしっかりしていれば、助産師主導の出産でも安全性は損なわれないという結論に落ち着いてきている。すぐれた研究を収集して要約している権威ある国際プロジェクト「コクラン・ライブラリー」では、それを裏付けるレポートを掲載している。
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