ニュージーランドは、母親に助産師がしっかり寄り添う出産システムをすでに20年以上も続けていることで有名だ。
その基礎を築いた政治家は、アーダーン首相と同じ労働党のヘレン・クラーク元首相である。クラーク元首相は、自分自身は子どもを産まなかったが、母親と助産師の要求に理解を示して助産師が活躍できる出産システムを作った。
9割の妊婦が開業助産師を選ぶ理由とは
ニュージーランドの出産システムは、日本とはさまざまな点で大きく異なる。日本では、妊娠した人は、まず病院に行かなければ、と思って「施設」を探すだろう。そして、出産施設で会う医療職としては産科医しか頭に浮かばない人が多いと思う。
しかしニュージーランドで妊娠した人は、施設ではなく、まず「人」を選ぶ。LMC(Lead Maternity Carer)と呼ばれる、自分の妊娠・出産・産後をトータルに診てくれる独立開業の専門家をひとり選ぶのだ。LMCは産科医、産科を学んだ一般医、助産師のいずれかから自由に選べて、ニュージーランドでは、なんと9割の妊婦が開業助産師を選んでいる。
助産師は必要に応じて医師と共働態勢をとるので、例えば妊娠高血圧症候群のような合併症があったり、早産になりやすかったりする「ハイリスク妊娠」の人でも助産師をLMCに選べる。
出産する場所も自由に選ぶことができる。リスクが低い人なら自宅や日本の助産院に近いバースセンターを選んでもいいし、LMCが契約している病院で産んでもいい。現状はというと、LMCに助産師を選んだ人を含めて、大半の人は病院を選んでいる。
病院で産む場合は、LMCのオフィスで妊婦健診を受け、陣痛が来たら病院に入院し、そこにLMCもやってくる。そして、病院の設備を使い、病院にいる勤務医や勤務助産師たちと協働して子どもをとりあげてくれる。病院の医療機器やスタッフという貴重な医療資源が、地域に開放されているのだ。欧米に広く見られる「開放型病院(オープンシステム)」と呼ばれているシステムだ。
日本では、開業助産師の下で産みたいと思ったら、出産場所は医師がいない助産院や自宅しか選べないことがほとんどだ。そのためハイリスク妊娠の人は受け入れてもらえず、助産院で産むことができても途中で急変があれば病院に搬送されることになる。この搬送が不安だと感じる人が多いので、日本では、開業助産師が介助する出産は1パーセントに満たない。
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