『ホワイト・アルバム』が発表されたのは1968年11月、半世紀も前の音盤です。正式名称は『ザ・ビートルズ』ですが、ジャケットが白一色なので、『ホワイト・アルバム』と呼ばれるようになりました。
数多あるビートルズの名盤群の中にあって、一般的には人気も評価も高いとはいえません。実際、ビートルズを世に出した名プロデューサー、ジョージ・マーチン卿は「この音盤の半分は駄作だ」と語っているほどです。
しかし、ここには、時の流れを超えて、ビートルズのファンであると否とを問わず、聴く者に語りかける実に多彩な音楽とそれにまつわる物語が詰まっています。
ところで、フランスにルイ・パスツールという細菌学者がいたのをご存じですか? ワクチンによる予防接種の開発で知られる偉人です。このパスツール博士がかつて、葡萄酒を礼賛してこう語りました。「1本のワインのボトルの中には、すべての書物にある以上の哲学が存在する」と。
この格言に倣えば、『ホワイト・アルバム』にはビートルズのすべての音盤にある以上の哲学が存在する、といえます。
プラハの春を背景に「バック・イン・ザ・USSR」
『ホワイト・アルバム』はビートルズ初のLP2枚組。全30曲を収録し、演奏時間は93分43秒に及びます。ですが、ここには、英米のヒット・チャートで首位を記録した27曲を集めた『1』に収録された「ヘイ・ジュード」や「イエスタデイ」のような誰もが知るヒット曲はありません。
その代わり、他のビートルズの音盤にはないジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、4人の等身大の姿が赤裸々に刻まれています。時に真剣に、時には遊び半分で、時に4人の息がピタリと合った成熟したバンドとして、また時には我儘放題のソロ・アルバムの様相をも呈します。4人の音楽家が音楽に向き合ったリアルな記録です。
そこには、ロックもポップもフォークもバラードもクラシックもレゲエもアヴァンギャルドもあります。古き良きビートルズもいれば、未来のビートルズもいます。実は、若き日のエリック・クラプトンも参加しています。耳を澄まし目を凝らせば、聴くつどに新たな発見があります。それが、今も色褪せぬ彼らの魅力でもあります。
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