1962年10月に『ラヴ・ミー・ドゥ』 でデビューして以来、『ホワイト・アルバム』制作までの5年半で4人の人間関係が大きく変わってきました。デビュー当時、ビートルズのリーダーは疑問の余地なくジョン・レノンでした。音楽でもカリスマ性でも圧倒的でした。各楽器の役割分担も明快でした。ドラムといえばリンゴ。他のメンバーがドラムを叩くなんて考えられませんでした。
しかし、デビュー以来、ジョン・レノンの圧倒的な才能に薫陶を受け、ポール・マッカートニーの音楽的才能は加速度的に進化と深化を遂げてきました。歌唱力、作詞・作曲・編曲のセンス、各楽器の演奏能力、すべてにおいてポールの音楽家としての才能が開花していきます。
実際、「バック・イン・ザ・USSR」でのポールのドラムは悪くありません。と言うか、リンゴとは異質のグルーヴでしっかりロックしています。実は、この2年後にはすべての楽器をポール1人で多重録音して初ソロアルバム『マッカートニー』を完成させる端緒がここにあるわけです。
ビートルズは、アイドル的な人気のある娯楽のためのロック・バンドから、ロックを革新し斬新な音楽をデザインするスーパー・バンドへと変貌していきました。それはまさに音楽制作のリーダーシップが徐々にポールに移っていく過程でした。その過程で起きたことは、実は、物理学の基礎である作用と反作用の連鎖でした。ジョンの鬼才がポールの成長を促し、それがジョンを刺激し、ジョージの才能を覚醒させ、リンゴの新しい扉を開いていったのです。それこそが4人のビートルをビートルズたらしめる本質でした。数式で表せば、1+1+1+1 > 4 です。
すべては流れの中で
音楽は、時間の流れの中に存在する芸術です。
したがって、アルバムを冒頭から通しで聴けば、曲単位では決して味わえない、つながりの妙にうたれ、個々の曲がよりよく味わえます。そこに起承転結がある一方、予定調和を壊す驚きもあります。
たとえば、ロック史上初のレゲエを導入した「オブラ・ディ・オブラ・ダ」の後にくるのが小品「ワイルド・ハニー・パイ」です。その終盤、突然スパニッシュ・ギター独奏が登場し、切れ目なく「バンガロー・ビル」に突入。鳥肌ものです。次が遅咲きジョージの才能が爆発した「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」です。ここには、ギターの神とまで崇められていたエリック・クラプトンが奏でる究極のギター独奏が輝いています。
トリビアですが、この録音セッションがきっかけとなって、クラプトンはジョージの愛妻パティ・ボイドと出逢ってしまいます。激しく横恋慕し、三角関係に懊悩するクラプトンは酒と麻薬に溺れます。そして、その想いを断ち切るべく録音するのが「いとしのレイラ」です。
そして、アルバム最後の2曲のコントラストが凄いです。常識を突き抜けた「レヴォリューション9」もあります。この8分13秒はロックの究極のアヴァンギャルドです。そして、ロンドン・シンフォニー・オーケストラが奏でる管弦楽にのってリンゴだけが歌う「グッド・ナイト」で幕を降ろします。
『ホワイト・アルバム』は、1968年のビートルズ疾風怒濤の時代を真空パックした音盤です。このわずか1年後には、ビートルズは実質的に解散します。爛熟のビートルズの光芒を味わい尽くすべし。
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