じわじわきてる「パン飲み」とはいったい何か パン職人と料理人が作り出した新たな空間
実は、2人はもともと新丸の内ビルにあるバーのあるパン屋、ポワン エ リーニュでともに働いていた。それぞれ充実した日々を送っていたが、2015年の春頃、売れ残ったバタールを使ったガーリックトーストを2人で開発したところ、1つ税別480円もするのに1~2時間で100個も売れる大ヒット商品になった。
当時、和田氏は店内を統括する責任者で、大谷氏はそれに次ぐ立場。店内の風通しも良い時期で、パン、料理というジャンルを超えたコラボレーションが可能だった。ガーリックトーストの作り方を2人で工夫したところ、飛ぶように売れたわけだ。
ジャンルが異なる2人が共働するメリット
この成功は、大谷氏に新しい視野をもたらした。「短時間で5万円近くになる手応えは大きかった。捨てられたかもしれない商品を使ったものが、職人の対価として返ってくること。『2人でガーリックトーストの店をやろうか』と話し合うようになりました」と大谷氏。その後もひんぱんに2人で飲んで話すように。お互いが相手の領域に興味を持っていて話がはずんだ。2人とも一介の職人で終わるのではなく、ビジネスを展開したいという夢を持つ点でも意見が一致した。
大谷氏は、もともと料理人一筋。調理師免許取得を目指す高校に通い、短大に進学して栄養士の資格なども取った。いくつかのフランス料理店で働き、パリやカンヌなどフランスでも修業した。一方、和田氏は辻調理師専門学校でパンを学んだ後、視野を広げようと和食やイタリアンなどの料理を経験。パンが自分に合っている、とパン職人としてポワンに入った。
大谷氏は以前から「料理とパンの店をやりたかった」。しかし、別のパン職人と店を開く予定が、なかなか歯車がかみ合わないでいた。一方、和田氏は地元の高知県で和食の職人として働く兄、調理師専門学校へ通う弟と兄弟で店を開く予定だったが、兄が働いている店の役職に就いて開業話が白紙になった。お互い、独立の話が宙に浮いていたところで、2人のタイミングがピタリと合ったのである。
2016年の夏頃から物件探しに動き、紹介されたのが現在の物件。ガーリックトーストだけで開業するには広いことから、ビストロ・ブーランジェリーの開業を決めた。
ジャンルが異なる2人が共同経営者として働くことは、店に良い影響をもたらしている。まず、コンビの良さが店の温かい雰囲気を生み出す。商品開発にも役立つ。たとえば和田氏がシナモンロールを開発したとき、「何かパンチが足りないんだよね」と大谷氏に相談したところ「白コショウを使ったら」と料理人の発想でアドバイス。
シナモンと白コショウを入れたパンを周囲に食べてもらったところ、「不思議な味がするよね」「おいしいよね」と評判がよく、商品化できた。大谷氏のアドバイスは、ほとんどが的確で「確かにそれがいいと思える」と和田氏は言う。
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