じわじわきてる「パン飲み」とはいったい何か パン職人と料理人が作り出した新たな空間
吉野家で一杯やる「吉吞み」など、近年外食業界では従来飲み屋として認識していなかった場所でのちょい飲みが話題になっているが、このところちまたで「パン飲み」なるものがはやっているという。”舞台”となっているのは、目下増えているパン屋も兼ねたビストロ・ブーランジェリーと呼ばれる形態の店だ。
ビストロとは言わずもがなフランス語で小さなレストランの意。一方、ブーランジェリーはパン屋である。もちろん、従来からカフェを併設するパン屋や、料理人がパンも焼く店はあった。が、ビストロ・ブーランジェリーが違うのは、パンは専門のパン職人が焼き、料理はプロの料理人が出すという点にある。
顧客の8~9割がリピーター
なぜパン飲みが流行るのか。それは、ある意味で、日本でもパン文化が成熟してきたからかもしれない。ブームが始まってから、そろそろ10年。各地でパンイベントが開かれ、人気のパン屋に行列ができる。コッペパン 、サンドイッチ、クロワッサン、食パンなど、さまざまなパンが流行った。パンにハマった人たちは、やがてシンプルな食事パンへと好みが移っていく。食事パンは、 ヨーロッパでワインを飲みつつ食べるなど、酒との相性がいい。パン好きが高じた人たちが、酒と合わせたいと考えるのは自然な流れではないだろうか。
そんなパン飲みできる店、として今パン好きから圧倒的な支持を集めているのが、東京・虎ノ門にある「Blanc(ブラン)」だ。同店は、席数14の小さな店ながら、ランチタイムには行列ができる人気店。周囲にパン屋がないこともあり、顧客が働くエリアも近辺のほか、愛宕、神谷町、汐留、銀座と広い。虎の門病院に通院する患者も、パンを買っていくという。
置いているパンは常時約20種類。その半分以上を1本460円の食パンや280円のバゲット、4分の1サイズで450円のカンパーニュなどの食事パンが占め、どのパンもまんべんなく売れていくという。外資系企業が集まる土地柄か、「ハンガリーのシチュー、グヤーシュを作ったからそれに合うパンが欲しくて」などと、日々の食事に使うパンを買っていく人も多い。「『このパン、すげえ』と言われるのではなく、食後に『パンもおいしかったよね』ぐらいのほうが、毎日食べる人は疲れないと思う」とパン職人の和田尚悟氏(35歳)は語る。
面白いのは、ビストロの顧客が8~9割リピーターという点だ。「隣り合わせたご夫婦同士が、ワインの話で盛り上がって、翌月に2家族4人で予約を入れてくださる。常連のお客さんに連れてこられた女性が気に入って、改めて友人を5人も連れてきてくださるといった感じで、お客さんの輪が広がっています」と料理人の大谷陽平氏(32歳)。
2016年に開業した同店は、これまでほとんど宣伝したことはない。それでも、誰かに連れてこられて来た人が、顧客になりさらに新しい人を連れてくる、という効果もあって客足が絶えないようだ。
パンもウリになるビストロを大谷氏が構想したのは、ハードルが高いと思われがちなフランス料理の店に入りやすいと思わせる工夫を、と思ったのがきっかけだ。実際、同店ではパン好きがランチのサンドイッチを食べに来たり、パンを買いに来たついでに夜の席を予約する人が多いという。
しかし、料理人とパン職人がなぜタッグを組むことになったのか。
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