《財務・会計講座》ファイナンスにおける“成さざるの罪”とは~スティールとソトーのTOB合戦の背景~

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■本業への投資や利益還元を怠る企業は市場からシビアな評価を下される

 さてここで、当時のソトーの経営状態を見てみよう。
ソトーの決算資料(連結) 抜粋 (単位:百万円)
◆バランスシート 2003年9月末(中間期末)
総資産額 32,252
I.流動資産計 5,753
1.現預金 908
2.有価証券 2,496
(中略)
II.固定資産計 26,498
(1)有形固定資産計 4,522
(2)無形固定資産 7
(3)投資その他の資産計 21,967
1.投資有価証券 20,826
(後略)
◆経営成績 2003年3月期(年間)
売上高 9,466
営業利益 988
経常利益 1,290
当期純利益 479
 2003年9月末の中間期末時点では、同社は総資産額322億円に対して現預金、有価証券、投資有価証券の合計額が242億円と、総資産額の75.1%に上っていた。その一方、株主資本は246億円(株主資本比率は76.5%)。資本金31億円に対し利益剰余金は179億円に上っていた。
 2003年3月期の年間売上高は約95億円であるのに対し、営業利益、経常利益、当期純利益はそれぞれ約10億円、13億円、5億円と、高収益を上げている。なお、2003年3月期の営業キャッシュフローは年間で15億円と潤沢で、有利子負債はゼロ。それなのに、年間配当金はわずか約2億円、本業に対する投資も少なく、余剰キャッシュフローは有価証券・投資有価証券の取得に充てられていた。
 TOB直前の2003年12月中旬時点で、同社の株式時価総額は137億円程度と株主資本(簿価で246億円)の約半額でしかなかった。しかしながら、同社のバランスシートには含み損的なものは見当たらない。現預金、有価証券と投資有価証券の合計額である242億円を、時価総額が大きく下回っている。これは、第4回目のコラムでみたクレイフィッシュのケースにも見られた現預金等の現在価値が大きく割引かれた状態であるが、クレイフィッシュでは事業のリスクが問題となったのに対し、ソトーでは堅実な事業ではあるが株主軽視(本業から逸脱する有価証券への過大投資)と取られる経営をしていたのが大きな違いと言えよう。
 ソトーの株価推移を見てみよう。TOBが終結した後の2004年2月末時点での株価は1800円、株式時価総額も283億円と、TOB前の2倍まで増加。株式時価総額が株主資本額(簿価)を上回るまでになった。とはいえ、2003年12月から2004年2月までの間にソトーの事業面での実態は何も変わっていない。なのに、TOBと増配を受け株価は2倍に急伸したのだ。
 ということは、TOB前までのソトーの資産(事業)は、株式市場で投資家から、本来よりもはるかに低く評価されていたことになる。手元の資金や内部留保が多いのに配当や投資に熱心でない、つまり株主軽視と捉えられる経営をしている企業は、ソトーと同様に市場からは低く評価されるため、TOBの対象となりやすい。
 この理由は、株主の立場になって考えてみると分かりやすい。資本を提供している側の株主は、ソトーのように成熟した企業が新たな投資をしないのであれば、利益還元すなわち配当を期待する。しかしソトーは、経営状態が良いはずなのに十分な配当をせず、本業から大きく逸脱する有価証券投資に多額の資金を投入していた。そうした株主軽視と見られる経営が継続していたことから、株式時価総額が異常に低くなっていた。こうなると、株主や投資家は、企業価値が毀損されている理由の分析や企業価値回復のための対策を、ソトーに求めたくなるだろう。経営者の側がそうした分析や対策を講じることがないまま長い時間が経ってしまうと、市場は企業の怠慢つまり“成さざるの罪”に嫌気をなし、その結果、株価が低く放置されてしまうのだ。このような状態に目をつけたのが村上ファンドやスティールといったアクティビスト・ファンド(物言う株主)だった。
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