自閉症と診断された22歳が挑む「会社員生活」 障害者手帳を携帯しての就活から現在まで

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「彼らは非常に優しいです。私が大卒だからといって変に遠慮することもなく、本当に仲間として一緒にやっていけており、すごくありがたいと思っています。自分は大卒ではありますが、業務のスピードなどはむしろ彼らのほうが訓練されていて、全体的に処理速度が早いので、自分自身もそれを見習ってできる範囲内で極力能力を上げていかなければいけないと思っています」

彼は他者とのコミュニケーションが苦手だったのだが、会社に就職することによって周囲との人間関係を考えるようになったという。自閉症スペクトラム障害のある人が就職して、すぐに辞めてしまうケースのほとんどが、この人間関係の壁によるものだ。

「入る前はただ単に嫌だという人がいたら、距離を取ることができたのですが、この職場では同じチームとして動かなければなりません。自分自身のしゃべり方とか話し方はもちろんですが、相手の方の価値観を極力受け入れ、否定しないようにするということに非常に気を使います。上司の方にも問題を指摘されたら、素直にきちんと受け止めるようにしています」

自閉症スペクトラム障害の人は、相互的なコミュニケーションのやり取りが苦手だ。職場では学生時代のように好きな人とだけ話すというわけにはいかず、より複雑な人間関係を築く必要がある。一生変わることのない特性のため、精神的なストレスがより大きくなる場合があるのだが、彼のように素直に受け止めることができる人は残念ながら少ない。

これから就活をする人へ

そこでこれから就活をする人、現在就活している人へ自らの経験を踏まえたアドバイスを訊いてみた。

「無理かもしれないと自分を決めつけることなくまずやってみる、試してみるということですね。それと就活で頑張っているほかの障害のある方を見て、自分一人だけが大変で頑張っているわけではないということがよくわかったので、たとえ何回も落ちたとしても、落ち込む必要はまったくないということを伝えたいと思います」

幼い時に発達障害と診断され、障害と向き合って特殊学級から頑張って大学まで卒業し、100社以上の会社に応募して、ようやく採用が決まった。現在は自分の居場所を見つけた自信からか、その未来を見据えた目は輝いているように見えた。

法定雇用率の上昇によって、障害者売り手市場といわれているが、大学を卒業してもスキルがなければ相原さんのように就活で苦労するのが現実だ。しかし、あきらめずに何度もチャレンジしていけば、必ず見てくれている人はいるのだ。

障害者雇用の門はまだ開いたばかりだ。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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