今年、東京での新卒採用10人中、初めて大卒を1人採用した。高卒も大卒も同じ処遇からのスタートだ。実習を受けてからの採用となるため、実習を体験し、さらに給与と仕事内容を聞いて辞退する大卒生もいるという。
2014年から国際的な診断基準の改訂で「自閉症」は「自閉症スペクトラム」という診断名に変更になった。「自閉症スペクトラム」の診断基準となるのが、「3つの特性」と呼ばれる「社会的なやり取りの障害」「コミュニケーションの障害」「社会的イマジネーションの障害・こだわり行動」だ。自閉症スペクトラムは、これら3つの特性があることが明らかになっている。
「全体的に動きがちょっとバタバタしてしまいがちなので、ぎこちなかったり、反応速度が少し緩いといった特性があります。そうしたことで相手を戸惑わせてしまったり、何やってるのと言われてしまうこともあり、本当にいろいろ苦労しました」
彼は3歳児以降の検査によって、知的障害もあることがわかり、大学病院で療育を受けていた。「療育」とは、発達障害や自閉症、肢体不自由など障害のある子どもが社会的に自立できるように医療や保育、機能訓練などを行うことだ。そのため、彼は普通の小学校ではなく特殊学級に入学することになった。しかし、現在では実際に面と向かって話し始めると、とても礼儀正しく、見た目にもまったく違和感を感じない。
「療育機関では会話とか発音とか認知機能のテストとか、さまざまな訓練を受けていた時代がありました。小学校の特殊学級に通いながら、そこで人とのかかわりなどの基礎を学んでいきました。低学年の慣れていない時は、人と交わること自体がそもそも苦手で不得意だったのですが、高学年になってくるとようやくなじんできました。低学年当時の先生からよくしていただいたので、小学校の頃は何とか乗り越えられたという感じです。いじめについては特に受けてはいません」
そして中学・高校は、自宅から1時間半かけて神奈川県にある不登校や発達障害の生徒を中心に教育している中高一貫校に通った。そしてAO受験で大学に入学し、そこで国際情勢や比較文化に興味を持ったという。
その後、本人の努力のかいもあり、無事に大学を卒業できる状況になり、就職を考える時期になった。彼の就職に対する考え方は、新卒にこだわらず、慌てずに就職することだったが、周りのアドバイスにより考え方が変化してきたという。
障害者手帳を携帯しながらの就職活動が始まった
「もともと僕は大学卒業してからすぐに就職するのではなく、卒業してから1、2年ほど準備期間を設けて、地元の障害者の支援機関を頼りながら地道に活動していこうと考えていたんです。ところが精神科の先生や、セミナーで参加していた担当者の方から、すぐに在学中にも就職活動を始めたほうがいいのではないかということを言われました。1年間も準備する必要はない、より積極的に打って出るべきではないかと言われたんです。また、早めに自分の将来を決めて親を安心させたかったという思いもありました」
障害特性が軽度であるため、周囲は新卒での就職が可能であると判断していたようだ。そこで障害者手帳を携帯しながらの就職活動が始まった。できるかぎり就職フェアやイベントに出展している企業と会い、ありとあらゆる情報を手に入れて、総当たりで当たるところはすべて当たった。どこかを選り好みしているような余裕はまったくなかったという。
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