「能力給」が社員のやる気を削ぎかねないワケ 「成果」ではなく「努力」に報いるべきだ

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ここで用いられたテストは、知能検査の問題の抜粋なのだから、「能力を褒めると生徒の知能は下がり、努力を褒めると生徒の知能が上がった」と解釈できる実験結果だと、ドゥエック教授は言っている。

しかし、私は、この結果を直接導いたのは、努力をしたかどうかの差だと思う。「能力を褒めると生徒は努力をしなくなって知能は下がり、努力を褒めると生徒は努力をするようになって知能が上がった」と言われたなら、納得である。知能は、知能検査の成績でしかないのだから、生まれ持った能力だけでなく、努力の成果でもある。

「能力を褒めると努力の成果を失い、努力を褒めると努力の成果を得る。努力の差は、能力の差につながる」という結果であると言われると、さらに納得できる。実験結果をよく見てみれば、もともとの能力に差がない同士であれば、努力の差は、能力の差につながりやすいという、当たり前の結果だったわけなのだから。

いちばんの教訓は、「どうやら努力に対価を与えることが努力を促し、努力の成果の分だけ能力向上につながるらしく、知能も例外ではないようである」ということだろうか。そして、この法則は、テストで好成績を取りにくい条件、つまり、能力の高さを証明しにくい条件でも、成り立つようである。

成果への金銭的対価は、やる気を奪いかねない

さて、ここで、社会のシステムの話に話題を戻そう。実は、成果に応じる金銭的な対価(インセンティブ)に関する51の研究をレビューしたthe London School of Economics and Political Scienceの報告がある。その報告では、インセンティブが被雇用者のノルマ達成率を下げ、ノルマ達成の喜びも減らすかもしれない圧倒的な証拠が見つかったとしている。

ノルマ達成率を能力の目安とするなら、成果に対価を与えることは、それが金銭であっても、能力を伸ばすことにつながらなそうだ。この報告では、成果に応じる金銭的な対価が、チームや組織の「やる気」を減らしうることを、会社は認識するべきだと結論している。

やる気には、内的な動機(intrinsic motivation)と外的な動機(extrinsic motivation)がある。努力する動機が「楽しむため」ならば前者に、「お金のため」ならば後者にあたる。従来、「成果に報いる対価」は、努力の外的な動機になり、成果を増やすと考えられていた。しかし実際は、外的な動機になる効果以上に、内的な動機を“奪う”効果のほうが大きく、全体としては成果を落とすことになってしまうことがわかった。

「努力に報いる対価」の場合は、それが「褒めること」であれば、内的な動機づけになるようである。ドゥエック教授らの研究でも、努力を褒められた子どもたちは、難問さえ楽しんで努力していた(なお能力を褒められた子どもたちは問題を楽しんでいなかった)。ただ、もし努力に報いる対価が「言葉」でなく「金銭」で与えられたらどうなっただろうか。

「努力に報いる金銭的対価」がわれわれの能力や成果、やる気に与える影響については、私の知るかぎり、「成果に報いる金銭的対価」の場合ほどの明確な結論は出ていない。ただし、努力の金銭的対価、つまり給料が、努力の割に合わないと感じる額だったら、努力が動機づけられるどころではなく、やる気を失うのは目に見えている。努力の割に合う給料は、やる気を失わないためには不可欠だ。それが努力の現状維持につながる。

そこからさらに、能力向上につながるほどの努力を引き出すには、努力の割に合う給料に、プラスアルファの工夫を加えることが大切だと思う。「よく頑張った」と、努力に報いる「言葉の対価」を給料に添えることは、仕事を楽しくすることに役に立つかもしれない。

特に、この言葉が、能力の向上につながることを知っているなら、努力する外的な動機にもなるだろう。同時に、成果や能力への対価が人の努力を減らし能力の低下につながることも、覚えておくとよいと思う。これらの知識が、成果や能力ばかりを追い求めることを戒め、努力の大切さを思い出させてくれるのではなかろうか。

粳間 剛 医師、医学博士、脳科学者

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うるま ごう / Go Uruma

医師(内科/精神科/リハビリテーション科)。高次脳機能障害・発達障害・認知症のリハビリテーションを専門とする。著書に『コメディカルのための邪道な脳画像診断養成講座』『高次脳機能障害・発達障害・認知症のための邪道な地域支援養成講座』『ココロとカラダの痛みのための邪道な心理療法養成講座』がある。

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