わからないことが許せないという「バカの壁」 養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<下>
前編:「バカの壁」はネット時代にますます高くなる
中編:データですべてわかると盲信する「バカの壁」
新井:それにしても、400万部というのはすごいですね。『バカの壁』です。
養老:ネットの炎上に近いんじゃないんですか。よくわかりませんね。
新井:400万部は炎上ですか。
養老:そうですね。
新井:それ、面白いですね。私、あれを読みこなせる人が400万人もいるはずないって思ってたんです。
養老:アフリカにサバクトビバッタっていうバッタがいるんです。アジアにもいますけど。それは突然大発生するんです。理由はわかっていません。農作物は全部やられます。だから、あれと同じだと思うんです。理由はわからないんです。
AIに危機管理はできない
養老:今の人って、物事は予測がつくっていう考え方をしますね。できるわけないのに、予想できないほうが悪いと思い違いしています。世界は論理的、合理的にできているから予測可能なはずだと。予測できない状況というのが非常に不安なんですね。
村山内閣のときに危機管理に関する委員会ができて、その委員になれって言われたんです。「ぼくが危機管理? なんで? ぼくが解剖している人は全部死んじゃってて、危機は終わってるのに」って言ったんですけど、会議に出て何か言えと言われたので、仕方なしに、「管理できない状況を危機っていうんじゃないんですか?」って言いました。相手にされませんでしたけどね。予測できるから危機は管理できるはずで、管理しなければならない、というような考え方が主流を占めていたような気がします。
でも、危機管理って、その言葉自体が矛盾でしょ。
新井:危機を管理すると言っちゃうと、管理することになっているから管理できることにしようみたいな話になってきますね。話が捻じれてます。「非戦闘地域には派遣しないことになっている自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」っていうのと同じですね。