わからないことが許せないという「バカの壁」

養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<下>

本当におもしろいのは「わからないこと」だといいます(撮影:尾形文繁)
養老孟司氏と新井紀子氏は、どちらもベストセラーを世に送り出しています。
養老氏は400万部を超える歴史的大ベストセラー『バカの壁』の他、著作は70作を超えています。
近著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』が20万部を超えるベストセラーとなった新井氏は、AI技術を結集してロボットを東大合格にチャレンジさせた「東ロボくん」の研究プロジェクトで有名な数学者です。
その『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の読者の方からは、『バカの壁』との共通点を指摘する感想が寄せられています。
2人の対談は今回が初めて。バーチャル化する実社会やデジタルネットワーク社会に潜む「バカの壁」を通奏低音にして、話題はAI、民主主義、虫取り、医療、教育など多岐に及びました。全3回の対談、その後編をお届けします。
前編:「バカの壁」はネット時代にますます高くなる
中編:データですべてわかると盲信する「バカの壁」

新井:それにしても、400万部というのはすごいですね。『バカの壁』です。

養老:ネットの炎上に近いんじゃないんですか。よくわかりませんね。

新井:400万部は炎上ですか。

養老:そうですね。

新井:それ、面白いですね。私、あれを読みこなせる人が400万人もいるはずないって思ってたんです。

養老:アフリカにサバクトビバッタっていうバッタがいるんです。アジアにもいますけど。それは突然大発生するんです。理由はわかっていません。農作物は全部やられます。だから、あれと同じだと思うんです。理由はわからないんです。

AIに危機管理はできない

養老:今の人って、物事は予測がつくっていう考え方をしますね。できるわけないのに、予想できないほうが悪いと思い違いしています。世界は論理的、合理的にできているから予測可能なはずだと。予測できない状況というのが非常に不安なんですね。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

村山内閣のときに危機管理に関する委員会ができて、その委員になれって言われたんです。「ぼくが危機管理? なんで? ぼくが解剖している人は全部死んじゃってて、危機は終わってるのに」って言ったんですけど、会議に出て何か言えと言われたので、仕方なしに、「管理できない状況を危機っていうんじゃないんですか?」って言いました。相手にされませんでしたけどね。予測できるから危機は管理できるはずで、管理しなければならない、というような考え方が主流を占めていたような気がします。

でも、危機管理って、その言葉自体が矛盾でしょ。

新井:危機を管理すると言っちゃうと、管理することになっているから管理できることにしようみたいな話になってきますね。話が捻じれてます。「非戦闘地域には派遣しないことになっている自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」っていうのと同じですね。

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