わからないことが許せないという「バカの壁」 養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<下>

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新井:「バカの壁、どうやって乗り越えればいいですか?」

養老:その質問は、数え切れないくらい受けました。直感で言うと、きちんと会社勤めしている人っていうのは、たぶん、そういう人ですね。答えが欲しい。そういう人と話していても、あまり面白くありませんね。全員ではないですよ。もちろん。

自分で考える

養老:人間っていろんなことができるんですよ。それは、体だけ見ててもよくわかるんです。ぼくの知り合いに本当にいろんなことをできる奴がいるんですけど、蝶の卵を採るために40メートルとか60メートルの木のてっぺんまでさっと登っていくんです。でも、見つからないときもあるんですよ。そしたら、隣の木に飛び移るんです。まるでサルですよ。彼は言うんです。サルにできることがヒトにできないわけないだろうって。

新井 紀子(あらい のりこ)/1962年東京都生まれ。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院数学科を経て、東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。著書に『改訂新版 ロボットは東大に入れるか』(新曜社、2018年)『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社、2010年)などがある

最初からできないって決めてたら、何もできませんね。でも、やろうと思ったら、できるようになるかもしれない。誰かに教わるわけじゃないですよ。自分で考える。だから、何でもかんでも教えちゃだめなんです。

子どもをジャングルに連れていくとしますよね。12歳でも15歳でもいいんだけど。最初は怖がって何もできませんよ。でも、1週間も放り込んでおいたら、元気が出てきたりします。何でも自分で考えてやるようになります。

そういう意味で、ぼくは楽天的です。生き物は適応能力が非常に高いんですよ。特に、生死に関わるようなことになると、俄然、能力が出てきます。それから、責任を持たせると能力を発揮します。だから、若い人を育てるのにいちばんいいのは責任を持たせることだと、いつも言ってます。

新井:それは、そうですね。

養老:そうでしょ。あっという間に育っていきます。

新井:昔、「お使い」ってありましたよね。10円玉とか50円玉を握らされて、お豆腐屋さんに行って、いい加減なことしてるとお豆腐がぐちゃぐちゃになって、叱られます。だから、お豆腐が壊れないようにどうやって持とうかって真剣に考えました。キャベツ1つ買うにしても、どっちが大きいかとか、柔らかそうかとか、しっかり巻いてるかとか、真剣だったように思います。いまはその真剣さがなくなったというか。

養老:全部、シミュレーションだね。

新井:そうなんです。そうすると、結局、ずっと自分では何も考えないで、教えてもらうだけで22年生きてしまうんですね。そして、大学を卒業して社会に出て、突然、答えのない問題を解決しろって言われても困るということになっています。

養老:昔は修羅場を踏むという言葉ありましたね。修羅場を踏んだ人は顔でわかりました。日本だけじゃありませんね。

基本的に子どもを育てるのが上手でなくなっている気がします。日本の場合、そういうムードになっていますね。だから少子化なんでしょ。自然の状態がわかんなくなっちゃったから。子どもがいるのが、子どもが育つのが自然の状態ですけど、東京なんか自然がないもんね。「杉林があって自然がいっぱいです」って、違うよ、杉林は人間が植えてるんだよ。そういう区別もついていません。

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