データですべてわかると盲信する「バカの壁」 養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<中>
上編:「バカの壁」はネット時代にますます高くなる
ポピュリズムの原点
養老:虫取りもそうですが、解剖の世界はこれ以上ないっていうくらい、地面に張り付いた世界です。その点、インターネットとかAIとか、デジタル世界が幅を利かせている社会は、なんか宙に浮いてきたなという感じがしています。地面に張り付いた世界から見ていると、皆さん上空を飛んでいる。あまり、健康的ではないと思います。まあ、それはそれでいいんです。ですが、ときどき糸が切れてしまうみたいなことがありますね。
新井:それが、ポピュリズムに利用されているんだと思います。前回(「『バカの壁』はネット時代にますます高くなる」)、SNSの登場で、インターネット社会で8割の人が発信する側に回るという状況ができて、ネット社会の信頼性が損なわれたというお話をしました。ネット社会の一部は悪意や憎悪とフェイクニュースに席巻されて、うそだらけの世界になっていて、それが、ポピュリズムに利用されているという話です。
前に読売新聞に書いたことがあるんですけれども、ポピュリズムが始まったのは、小泉政権のときだったと思います。「自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」という国会答弁です。左派の方々は「論理が崩壊している」と批判しましたが、私は違うと思いました。
小泉さんは国民の「論理で考える力」が相当崩壊していることを見抜いた。日本人のリテラシーが下がっていることを見越しての発言なんだと思ったんです。今の政治状況を見ていると、国民はあのときよりもっと見くびられているんじゃないでしょうか。自衛隊の日報問題や財務省の公文書改ざんの問題でも、何を言っても政権の支持率が下がらないのを見ていると、そう思ってしまいます。