データですべてわかると盲信する「バカの壁」 養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<中>

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うそだらけの世界がポピュリズムに利用されている(撮影:尾形文繁)
養老孟司氏と新井紀子氏は、どちらもベストセラーを世に送り出しています。
養老氏は400万部を超える歴史的大ベストセラー『バカの壁』のほか、著作は70作を超えています。
近著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』が20万部を超えるベストセラーとなった新井氏は、AI技術を結集してロボットを東大合格にチャレンジさせた「東ロボくん」の研究プロジェクトで有名な数学者です。
その『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の読者の方からは、『バカの壁』との共通点を指摘する感想が寄せられています。
2人の対談は今回が初めて。バーチャル化する実社会やデジタルネットワーク社会に潜む「バカの壁」を通奏低音にして、話題はAI、民主主義、虫取り、医療、教育など多岐にわたりました。全3回の対談、その中編をお届けします。

上編:「バカの壁」はネット時代にますます高くなる

ポピュリズムの原点

養老:虫取りもそうですが、解剖の世界はこれ以上ないっていうくらい、地面に張り付いた世界です。その点、インターネットとかAIとか、デジタル世界が幅を利かせている社会は、なんか宙に浮いてきたなという感じがしています。地面に張り付いた世界から見ていると、皆さん上空を飛んでいる。あまり、健康的ではないと思います。まあ、それはそれでいいんです。ですが、ときどき糸が切れてしまうみたいなことがありますね。

新井:それが、ポピュリズムに利用されているんだと思います。前回(「『バカの壁』はネット時代にますます高くなる」)、SNSの登場で、インターネット社会で8割の人が発信する側に回るという状況ができて、ネット社会の信頼性が損なわれたというお話をしました。ネット社会の一部は悪意や憎悪とフェイクニュースに席巻されて、うそだらけの世界になっていて、それが、ポピュリズムに利用されているという話です。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

前に読売新聞に書いたことがあるんですけれども、ポピュリズムが始まったのは、小泉政権のときだったと思います。「自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」という国会答弁です。左派の方々は「論理が崩壊している」と批判しましたが、私は違うと思いました。

小泉さんは国民の「論理で考える力」が相当崩壊していることを見抜いた。日本人のリテラシーが下がっていることを見越しての発言なんだと思ったんです。今の政治状況を見ていると、国民はあのときよりもっと見くびられているんじゃないでしょうか。自衛隊の日報問題や財務省の公文書改ざんの問題でも、何を言っても政権の支持率が下がらないのを見ていると、そう思ってしまいます。

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