データですべてわかると盲信する「バカの壁」

養老孟司×新井紀子「バカの壁」対談<中>

新井:昨日、小学校4年生の算数の授業を見てきました。面白かったのは「いろんな二等辺三角形を描いてみましょう」っていう出題です。1人の女の子が正三角形を描きました。算数が不得意そうなお子さんでした。本人もよくわからなくて描いたのだと思います。隣の子に「それ違う」って言われて、すぐに消そうとしたんです。私はそばにいって、こっそり「これは消さないでおこう。おばちゃんを信じて、このまま出しちゃおう」って言いました。

先生がそれを授業で取り上げて、「これはどうですか?」って児童に質問すると、35人いた児童のうち34人が「間違いです」って言い張りました。でも、もちろん、正三角形も二等辺三角形です。35人のうち、普段は「違うよ」と言われていた女の子1人が正解者だったんです。先生はそれを説明されました。

こういう体験を積み重ねることが民主主義だと私は思っています。35人のうち34人が違うと言っても、正しいことは正しいと言って前に進むのが民主主義だと。そのとき、議論するのに大切なのが言葉の安定性とリテラシーです。それがなくなると、「自衛隊は戦闘地域には派遣しない。だから、自衛隊を派遣しているところで戦闘があってもそれは非戦闘地域だ」という論理的に破綻したへ理屈がまかり通ることになってしまいます。

大平内閣や宮澤内閣だったら絶対それは言えなかったと思います。そういうへ理屈を思いつかないのではなくて、理性がストップをかけるから言えない。小泉さんはそれを言っちゃった。それが、ポピュリズムの出発点だったと思います。

陰謀は至るところにある

養老:どうなんでしょうかね。そういう話になると、何が実情を反映していて、何が反映していないのか、ぼくには皆目わかりません。

養老 孟司(ようろう たけし)/1937年鎌倉市生まれ。東京大学医学部を卒業後、解剖学教室に入る。東京大学大学院医学系研究科基礎医学専攻博士課程を修了。1995年東京大学医学部教授を退官。1996年から2003年まで北里大学教授。東京大学名誉教授。『からだの見方』(筑摩書房、1988年)『唯脳論』(青土社、1989年)など著書多数。最新刊は小島慶子氏との共著『歳を取るのも悪くない』(中公新書ラクレ、2018年)(撮影:尾形文繁)

ぼくは、昔から世界中を疑っているんですよ。9.11もそうです。あれは完全にお芝居だという感じがします。ぼくが言いたいのは、あれは陰謀だったということですけど、世界が少数の人間の陰謀によってすべて動かされているというようなフィクションの陰謀論じゃないんです。陰謀は世界の至る所にある。インターネット世界にももちろんある、ということです。

9.11のとき、アメリカはブッシュ政権でした。ご存じのように、あの政権は目的が正しければうそをついても構わないという意見の人たちが多数を占めていました。いわゆるネオコンですね。イラク戦争は大統領就任のときからの既定路線だったと、アメリカ人が書いています。そんなふうに、政治の具体的な目標がはっきりすれば、いまはいろんな手が使えます。

それがネットワーク社会の成熟やAIの登場で、さらに見えにくくなっていると思います。陰謀自体が見えにくくなっていると。

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