大量の脱北者を防ぐには「体制保証」しかない 「経済特区を用いた高度経済成長」が現実解だ

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「だが、経済開発を成功させるには、本物の政治改革に加えて、体制の根本的な見直しが伴わなければならない。資金援助とイデオロギーのシフトの両方がそろわなければ、経済開発は失敗する。金正恩体制に新たな正当性を与えるためのダイナミックな経済成長は生み出せないということだ」

――政治改革の必要性について、もう少し詳しく。

「北朝鮮は極めて重要な転換点にある。もし北朝鮮が普通の国となるべく、改革と開放によって軌道修正を図りたいと考えるのであれば、イデオロギーも変えるべきだ」

「政治を変えることなく、経済を改革するのは不可能だ。共産主義国はすべての生産手段を国が所有し、中央が集権的に経済を計画・管理している。官僚支配、全体主義、独裁といった国の本質が変わらないかぎり、経済の改革開放は進まない。速いペースで大規模な経済改革を実現するには、政治の変革が不可欠だ」

「(マルクス・レーニン主義を基盤とする)チュチェ(主体)思想に基づいて経済を発展させることはできない。これは、資本主義によってイデオロギーが“汚染”されるのを禁じる政策だ。このような政策の下では、経済の開放などありえない」

経済特区が最も効果的なアプローチだ

――市場経済化を進めれば北朝鮮は一気に不安定化する。混乱を和らげるために、金委員長は何をすべきか。

「経済を急激に近代化、開放し、海外から投資を受け入れれば、北朝鮮は現状を維持できなくなる。経済の改革開放は体制を揺るがす可能性がある。たとえば、国営企業が一夜にして競争力を身に付けるのは不可能であり、民営化の過程で倒産することになろう」

「混乱を押さえ込むのに最も効果的な方法は、中国と同じアプローチを取ることだ。中国では鄧小平が1970年代の終わりに中国南東の沿海部で、4つの経済特区を厳選のうえ設置した」

「北朝鮮は中国が行ったように4つか5つの経済特区を育てるのに集中すべきだ。多数の特区を持つべきではない」

「特区の発展には巨額の設備投資が必要になる。電力、水道、通信、鉄道、空港、道路などのインフラを整えなければならないからだ。北朝鮮は4つか5つの特区を持ち、そこに投資を集中すべきだ」

「ショック療法のような、より過激な改革を行えば、体制は崩壊し、北朝鮮は混乱に陥る。脱北者が大量に出るのは間違いない」

「大混乱を防ぐために特区を用いる手法には、韓国からの支援と投資が欠かせない」

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