(第4回)新規事業における、『間違った常識』

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(第4回)新規事業における、『間違った常識』

坂本桂一

 今回は、社内の仕組みの観点から、新規事業(企業内起業)の成功確率を下げている、企業における「間違った常識」の中から、特に重要であると考えられる点について順番に取り上げていきます。

 例えば、新規事業を検討する際に、社内に事業審査会や投資委員会のようなものを作って、そこで新規事業の企画を検討しているという話は、わりとよく聞かれます。
なるべく多くの意見を取り入れたほうが、よりよい結論を導き出せるはずだ(もしくは、そうしたプロセスを経ることで、社内でプロジェクトを推進しやすい)と考えているのでしょう。しかし、新規事業をはじめるにあたって多くの意見を取り入れるのは、害の方が多いのが実際です。多くの人から意見を聞くと、そこにいる全員の、経験の範囲のなかに収まるものしか出てきません。新規事業の成功体験のない(また、当該案件について思い入れの薄い)人たちから集めた多数の意見の中から、世の中に受け入れられる新しいビジネスが生まれるはずがありません。

 新規事業をはじめようとしたとき、例えば社内からこんな意見が集まることでしょう。
・市場がないから売れない
・はじめから黒字にしろ
・昔うまくいった方法を踏襲しろ
・前例がないからやめろ
・既存の事業と一部競合するから、やめろ
・自分の部門に都合が悪いから、やめろ
 こういった意見を全部まともに聞いてビジネスプランやコンセプトに対して妥協していったら、どうなってしまうと思いますか。なんのインパクトもなく、わざわざ新しく始める価値のないものになってしまうことは間違いありません。自己矛盾を起こしてしまい、そもそも事業として立ち上がらないかもしれません。
 多くの人の意見を取り入れることでより正しい判断ができるなどというのは、根拠のない思い込みに過ぎないということがわかるでしょう。

 だから、新規事業の意思決定にかかわる人間は、できるだけ少ないほうがいいのです。
 理想的なのは、新規事業の事業化の判断においては、社長と担当役員など、当該案件に関係の深い少数のトップ層と、外部の新規事業経験の豊富なベンチャーキャピタリストなどより構成される、人数を絞った組織体で十分な議論をつくす形です。
 また、新規事業立ち上げ後の意思決定においては、本社の社長、あるいはそれに代わる人と、新規事業の実務担当者(新規事業会社の新社長)が同等の権限を持って、一対一で話し合って決めるというシステムをとるべきです。それ以外の社員やスタッフの意見を参考にするのはもちろんかまいませんが、デシジョン・メイキングはあくまで二人だけで行うのです。
 このとき、両者の意見が最後まで一致しないときはどうするかというルールは、必ず決めておく必要があります。
 私としては、意見が一致しない場合は、基本として新規事業の実務担当者(新社長)の意見を採用し、本社の社長がその意見をどうしても受け入れられないときは、人事権を発動してその担当者を外すというのが、経験上、いちばんいいルールだと思います。

 また、新規事業を行なう組織を、「まだ成功するかもわからないので、小規模に既存事業部内でやろう」「担当は専任ではなく、既存ビジネスと兼任でやろう」というような考え方も、新規事業の芽を摘むことになります。本来、新規事業と既存事業との間では、メンバーに求められるスキルや意識、ルールまでも全く異なるものです。今日の延長上で、明日のアクションが想像できる既存事業とは異なり、新規事業では常に過去にないものを考え続け、修正を続けなければなりません。両機能を本来、ひとつの組織内、ひとりの担当内に混在させていくことは不可能なのです。当初は赤字となる新規ビジネスとその担当のアクションに対し、その隣で日々予算に追われ、数字を求められる既存ビジネスの関係者たちは快くは思えないでしょう。また、既存ビジネスと兼任で、新規ビジネスに関わることとなったメンバーは、なかなか結果の出ない、努力が結果に結びつきにくい新規ビジネスに嫌気がさし、既存ビジネスへと逃げ込んでしまうことでしょう。

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