(第4回)新規事業における、『間違った常識』

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 新規事業を行なう組織は、他の事情が許されるなら、別会社化することをお勧めします。別会社化の形で物理的に枠を切り分けていくことが、新しいビジネスに向けて、関係者の意識を変えていくための必要条件となります。新会社のメンバーは当初は出向でもかまいません。ただし専任とすることは極めて重要です。失敗した場合も戻れる手形を渡しながらも、出向期間中は、新規事業について毎日24時間考えることをミッションとしていくべきです。

 立ち上げ後の新規事業の評価においても、企業においては「間違った常識」がまかりとおっています。具体的に言えば、新規事業を既存事業の評価方法で評価してしまう会社が非常に多く見受けられます。
すでにある事業を発展させていくのと、ゼロから事業を生み出すのとでは、それこそ同じスポーツでも野球とサッカーほどの違いがあります。

 では、新規事業ならではの評価手法とはどのようなものでしょうか。既存の事業の場合は、計画どおりに成長しているかどうかという点が、一般的な評価軸となります。
だから、事業担当者がスプレッドシートに売上げや諸経費などを書き込み、事業評価会議などでそれをもとに目標に対する進捗率などをチェックし、評価したり対策を練ったりするようなことが行われるのは、当然のことです。
 しかし、生まれたばかりでまだビジネスとして成り立つかどうかわかりません。むしろ成立しない可能性のほうが高い新規事業の成長率など、評価しても意味がありません。新規事業は既存事業とは違い、不連続に成長していくものです。
 売上げや成長率を上げるよりも新規事業に必要なのは、事業として成功する確率を少しでも高くすることが大事です。ならば、そのために全力を尽くすべきですし、評価するならその部分を評価しなければ意味がありません。
 言葉を換えれば、売上げ数字のような量ではなく、(例えば下記のような)質の部分を評価するのです。

・出費の絶対額を抑えることよりも、きちんと設計され、ビジネスのポテンシャルの評価が可能なテストマーケティング展開を行なうこと。
・初期導入顧客の導入・利用実態調査と評価フィードバックをきちんと行なっているか。
・店舗ビジネスの場合は、担当者が実際に店に足を運び、改善を図れるような仕組みを構築できているか。
 上記のように、質的な評価軸を設定せずに、新規事業の芽を摘んでしまうことになりかねないですし、メンバーも閉塞感をもってしまうことでしょう。

 最後に、人材についての「間違った常識」を考えてみましょう。
 新規事業には、どんな人材を投入すべきなのでしょうか。
 業績好調で魅力的な事業分野の会社が新規事業をはじめる場合、社内のいわゆる一軍メンバーを投入すると思いますか。
 会社としても、せっかく売上げ好調で高い利益をあげている部署から、優秀な人材を他に回すようなことはしたくないはずです。そこで、新規事業にはどうしても、一軍ではなく二軍クラスが送り込まれることになります。
 しかし、新規事業の成功のカギは、ここで送り込む人材が握っています。たとえば、同じ条件で飲食店をはじめても、人材の差で売上げに五倍くらいの開きはすぐに出ます。それくらい、新規事業というのは人によって左右されるのです。
 既存事業の運営よりも新規事業の立ち上げの方が難しいのが普通ですから、モチベーション、能力の両面において、一軍クラスの人材を投入すべきです。

 もし、優秀な人材が新規事業に関わることに対してネガティブなイメージを持っていたり、配属されたメンバーが閉塞感を持っているようなら、人事評価や社内の文化を見直すことをおすすめします。
 具体的には、人事評価を「失敗をキャリア上の減点対象とせずに、上ぶれのみ許す」という方針にし、その新規事業がうまくいかなくても本人の意向で元の部署へ戻れるようにしておくことです。文化面については、制度面での裏付けをしっかり行ったうえで、トップから挑戦を尊び、意味ある失敗を評価するというメッセージを繰り返し伝えたり、自主性を発揮できる場を普段から設けるようにするとよいでしょう。
新規事業がうまくいかない理由
~「プロ」が教える成功法則~
坂本 桂一 著
場当たりが先行しがちで前に進まない新規事業。失敗率は9割以上とも言われる。成功のために何をすべきなのか。200社以上の事業に生命を吹き込んだ「プロ」のノウハウを大公開。

坂本桂一(さかもと・けいいち)
(株)フロイデ会長。事業開発プロフェッショナル。山形大学客員教授。
専門は新規事業創出、ビジネスモデル構築、M&A。1957年京都市生まれ。
東京大学入学後、在学中にソフト制作会社�サムシンググッドを設立する。以後も(株)ソフトウィング、アルファシステム(株)、アドビシステムズ(株)(当時社名アルダス(株))、(株)ウェブマネーなどを設立し代表、会長に就任。うち数社を年商数百億ビジネスに育て上げる(以上すべて現在は退任)。日本のITビジネスの黎明期より、その牽引役として活躍。ソニーSMC70、シャープX68000、WINDOWS3.0J、プレイステーション等の開発にのスタンダードとして成功を収める。
現在、これまでの実業家経験を生かし、ハンズオン型のコンサルティング活動を行っている。
著書に、『頭のいい人が儲からない理由』(講談社、2007年)、『新規事業がうまくいかない理由』(東洋経済新報社、2008年)がある。

(株)フロイデ http://www.freude.bz/
新規事業開発から既存事業の成長戦略立案まで、総合的、創造的なコンサルティングを実施。特色は「事業立ち上げ経験者」を中心としたビジネスパートナーネットワークによる新規事業立ち上げ、経営改善のハンズオン型サポート。特に成熟ビジネスにおける「新しい付加価値」創造において、多くの実績を保有する。
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