ポイントカードがもたらす不毛すぎる消耗戦 店員も聞きたくて聞いているわけじゃない

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しかし、聞かないのもまたトラブルの種。会計後にポイントをつけるようクレームを受けることもあるそうです。どっちみちお客さんに怒られてしまう理不尽さに、Aさんはポイントカードの存在自体を恨めしく感じている模様でした。

店員さんが最終的に「失礼しました」と謝ってくるコミュニケーションについても、違和感を覚える意見は少なくありません。「失礼しました」と言われるたび、「店員を謝らせて平然と店を出るイヤな客」になってしまうという後味の悪さは、多くの人が感じているようです。

こういったコミュニケーションは、誰の指示によるものなのでしょうか。コンビニ大手3社によると、ポイントカードの有無を確認すること自体はマニュアル化されているようですが、持っていなかった場合に「謝る」というマニュアルはないようです。

だとすると、謝りオペレーションは現場の指示によることになります。

コンビニ店長のBさんは苦笑しながら、こう証言してくれました。

「お客様はコンビニ以外にもあらゆるお店でポイントカードを作り所持していらっしゃると思います。そのため『もうこれ以上ポイントカードは要らない』と考えるお客様も多いでしょう。基本的に『持ってない』と言われた場合には、マニュアルでは『よろしければお作りしましょうか』と聞かないといけないことになっています。

要らないと考えているお客様の中には、この問いかけを不愉快に感じる方もいらっしゃるでしょう。で、機嫌を損なわないように『失礼いたしました』と言うように指示しちゃっています。ま、忖度ですよ」

ポイントカードは顧客を囲い込むためのツール

ポイントカードは顧客を囲い込むためのツールなので、その登録・利用促進は、現場において重要なミッションとなります。「謝る」行為はマニュアルとして強要されていないものの、現場の店長からするとポイントカードの勧誘をできるだけ角がたたないようにしないと、それこそ再来店してもらえないかもしれない可能性もあるわけです。

しかし、それでは本末転倒です。本部の戦略を忖度しつつも、お客さんの不快感を忖度する必要もあるのです。結果、一連のコミュニケーションを成立させる緩衝材として「失礼いたしました」が奨励されていくことになったのでしょう。

上位の意向を忖度し、コトを丸く収めようとしすぎておかしなことになってしまうのは、どうも政治の世界だけでないようです。忖度店長の気遣いに端を発し、お客さんと従業員双方にストレスを与える過剰なコミュニケーションに発展してしまう。笑えないジョークのような話ですが、おもてなしの国であるがゆえのジレンマなのかもしれません。

平賀 充記 ツナグ働き方研究所 所長

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ひらが あつのり / Atsunori Hiraga

人材開発コンサルタント/組織コミュニケーション研究家/若者キャリア研究家。1963年長崎県生まれ。同志社大学卒業。1988年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。主要求人媒体の全国統括編集長を経て、2012年リクルートジョブズのメディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任。著書に『非正規って言うな!』(クロスメディア・マーケティング)『神採用メソッド』(かんき出版)『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。
ツナグ働き方研究所オフィシャルサイト「ツナケン!」:https://tsuna-ken.com/

 

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