人の欲望のカジノが経済危機を生んだ 『人類資金』阪本順治監督が見た経済の正体

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――特に「M資金」は、旧日本軍の隠し財産と呼ばれていましたからね。

阪本順治 さかもと・じゅんじ
1958年大阪府出身。横浜国立大学在学中より、石井聰亙(現・石井岳龍)、井筒和幸、川島透ら各監督の現場へスタッフとして参加する。1989年に『どついたるねん』で長編デビュー。良質なエンタテインメント作品として、日本映画界に大旋風を巻き起こし、芸術選奨文部大臣新人賞および日本映画監督協会新人賞をはじめ、その年の国内の各映画賞を総なめにする。2000年の『顔』では、第24回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。その後もジャンルを問わず、コンスタントに作品を撮り続けている。主な作品として、『鉄拳』『王手』『トカレフ』『ビリケン』『KT』『亡国のイージス』『闇の子供たち』『大鹿村騒動記』『北のカナリアたち』など

日本が戦後復興するにあたり、確かに世界銀行や国際通貨基金などといったところから資金が投入されたかもしれませんが、それでもそれだけではこの復興の早さは説明しきれないのではないかと思っていて。一度解体させられた財閥がもう一度息を吹き返す過程においても、自民党が生まれ政治が安定していく過程においても、何らかのダークサイドのブラックマネーが存在したはずだと思ったのです。日本の戦後史に「M資金」のようなものがないとおかしいんじゃないかと。

国と国とがやり取りをするときには必ず機密事項があって、そこにはおカネも含まれていた……というのが、これまでの歴史ではないかということに興味があった。そもそも映画というものは、光が当たっているものにライトを浴びせても面白くない。日陰にある物や、闇の中にある物にライトを当ててフィルムに焼き付けるのが、映画の使命であり醍醐味だと思うのです。

そんな大仰なことを言わなくても、たとえば仲睦まじく近所を歩いている家族でもいいのです。一見、ものすごく仲がよさそうに見える家族も、いざ家庭内にカメラを置いてみれば、売春をしていたり、不倫をしていたり、家庭内暴力がある。そんな家族の姿をお客さんはのぞき見たいわけですよ。人の目にさらされない、ダークサイドにあるものを取り上げるのが映画ではないかなと思っています。その中で僕がずっと興味を持ち続けてきてたのが「M資金」、見えないおカネということです。

――『KT』や『闇の子供たち』もそうだと思うのですが、阪本監督はタブーに切り込んだきわどい作品が多いように思います。

賛否両論ありますが、そういう危ない企画が好きなんでしょうね。自分が手をつけないかぎり、おそらく何十年間、似たような企画は生まれないであろうものをやってみたい。それはもう欲であるわけですし、たとえ異端だと言われてもいい、そういう存在でいたいということです。

ギリシャ危機とポケットの千円札は繋がっている

――この題材を扱うにあたり、どの経済事象をとっかかりにしましたか?

「リーマンショックはなぜ起きたか」からです。リーマンショックのときに、日本の映画界はあまり影響を受けなかった。グローバリズムの影響を、僕は自分の職業の中では感じなかったのですが、(原作の)福井晴敏さんは感じていたようです。リーマンブラザーズが破綻した影響は、日本の書店にも露骨に現れ、書籍の販売数がかなり減ったと言うのです。

福井さんが痛烈に感じた実感を聞き、そもそもリーマンショックはなぜ起きたのか、というところから勉強を始めて、サブプライムローンやモーゲージ証券、CDO(債務担保証券)、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、レバレッジについても調べました。自分の中では、レバレッジとCDSが二大悪だな、という印象を受けたのです。責任を取り切れないようなおカネを借りたり、他人の不幸を期待するなんてことは、これはもはやどうやったって、人の欲望で成り立つカジノでしかないと思いました。

ある種実体のない、目の前に数字しかない状態での売買に一喜一憂しつつ。ある時はおびえ、ある時は賭けに出るということの繰り返しじゃないですか。それの何が幸せなのかと僕は思います。やはり僕らは、この時期だからこそ、おカネというものに今一度ちゃんと向き合わないといけないのでは思っています。

今、世界中が経済の相互依存している状態で、誰かが何かを間違えると、それが自分たちの生活にまで及んでくる。そういう実感を持たないといけない。ギリシャの経済危機と自分のポケットに入ってる1000円札がつながっているんだ、というぐらいの極端な思いがないと、いつか痛い目に遭います。

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