為替レートは経済活動に甚大な影響を与える。また、リーマンショックの少し前から現在に至るまで大きく変動してきた。それにもかかわらず、変動のメカニズムについても、適正な水準がどこかについても、また為替レートをどうコントロールできるかについても、わからないことが多い。
ただし、いくつかのことは言える。
第一は、「財市場の条件変化で経常収支が変化し、それが為替レートを動かすのではない」ということだ。前回述べたように、リーマンショックを契機として、米国の経常収支赤字も日本の黒字も減少した。経常収支が為替レートを決めるのだとすれば、これによってドル高円安が起こるはずだ。しかし、実際に起きたのは、ちょうど正反対の動きだった。2009年から12年にかけて、顕著なドル安円高が進んだのである。
これは経常収支ではなく、資本収支によって為替レートが動くことを示している。だから、金融的な条件が大きな影響を与えるのである。
08年には円キャリーの巻き戻しが生じ、それが円高を引き起こした。すなわち、証券化商品のバブルが崩壊して、それに投資されていた資金が米国から日本に還流したため、円高になった(ただし、円キャリーの動きを国際収支統計で捉えるのは難しい)。バブル崩壊は住宅市場への資金流入を減少させて住宅投資を減少させ、それが経常赤字を縮小させた。
第二は、為替レートは資産の価格であるから期待の変化で大きく動くということだ。そして、経済実態から離れたバブルを起こすことがある。国際的な投機資金は簡単に国境を越え、さまざまな国にバブルを起こす。
では、09年から12年にかけての円高はバブルだったのだろうか。これは投機というよりは、ユーロ危機から逃避した資金が日本国債に投資されてもたらされたものだ。だから、これはバブルでなく、むしろ、07年までが円安バブルだったのだと考えられる。一方、12年秋頃からの円安は、投機によってもたらされた可能性が高い。
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