円高でなく、円安こそ日本経済に悪影響 為替レートの大変動は、日本経済に何をもたらしたか

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円安がもたらしたのは所得移転

円安が輸出産業の利益を増大させることは明らかである。それが株価を引き上げてきた基本的な要因だ。しかし円安が輸入コストを引き上げていることを忘れてはならない。

その状況を見よう。円ベースの輸入物価指数の対前年比は、7月が18.7%、8月が17.5%の上昇となった。一方、8月の消費者物価指数(全国)の対前年同月比は、総合では0.9%、生鮮食品を除く総合では0.8%の上昇だ。これらは、12年平均では、それぞれ0.0%とマイナス0.1%だったので、0.9%ポイントの上昇があったことになる。

円安による消費者物価の上昇はリーマンショック前にも起きたことだ。そのときの経験では、為替レートが20%円安になって、消費者物価が1%ポイント上昇した。為替レートは、この1年で25%円安になったから、消費者物価を1.3%ポイント程度引き上げるはずだ。したがって、転嫁は完全には行われていない。

当時と違うのは、発電の火力シフトのために、円安によって電気代も上がることだ。だから、円安がすべての企業の利益を増やすわけではない。利益増は、原料中の輸入の比率が低い産業(その典型が自動車)に限られる。消費者物価に与える影響もリーマン前より大きくなっているかもしれない。また、今後円安がさらに進めば、生産コストや消費者物価はさらに上がるだろう。つまり円安がもたらしたのは、経済拡大ではなく、所得移転である。

為替レートの予測はできないが、米金融緩和の行方が大きな影響を与えることは間違いない。前回述べたように、米金利が上がれば日本から資金が流出して円安になる。あるいは投機が縮小すれば、ユーロマネーが欧州に回帰し、やはり円安になる。

この状況は、日本経済にとって望ましいものではない。12年頃までの経済成長で、実質消費が増えた。名目ではほとんど横ばいだったのに実質が増えたのは、物価上昇率が抑えられたからだ。しかし、この状況は、円安が進むと変わる。

週刊東洋経済2013年10月12日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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