ドル建て輸出は円高で増え、円安で減っている
バブルかどうかの判断は、「適正なレート」の評価に依存する。
購買力平価で言えば、09年から12年にかけて、格別円高になったわけではない。これは、実質為替レートの推移で見ることができる。
ただし、購買力平価での評価にあたっては、基準時点を決める必要がある。それ如何によって結果は異なるものとなる。したがって、購買力平価によって誰もが納得するような結果を出すことはできない。
この問題を回避する一つの方法は、世界中でほぼ同一品質の商品が供給されている場合において、その現地価格を比較することである。この目的のために、よく使われるのが、「ビッグマック指数」だ。これによると、13年2月の円はドルに対し20%近くも割安だ。
しかし、バブルか否かの判定より重要な問題は、為替レートが経済活動にどう影響するかだ。とりわけ、輸出にいかなる影響を与えるかである。常識的に言うと、「輸出は円安で増加し、円高で減少する」ということだが、現実に起きているのは、ほぼそれと逆のことなのである。
円建ての輸出額は、円安が進むとドル建て輸出額が不変でも自動的に増える。この影響を除去するため、図にはドル建て輸出額の推移を示した(輸出数量指数も、ほぼこれと同じ動きを示している)。これを見ると、次のことが言える。
第一に、12年までの円高によって輸出が減少したわけではない。むしろ、増加した。
年間平均為替レートは、07年の1ドル=117.8円から11年の79.8円までほぼ継続して円高になった。しかし、それによってドル建ての輸出額が減少したかというと、そうではなかったのである。
リーマンショック直後には大きく下落したものの、09年6月頃からは回復した。そして、11年の秋から12年の春にかけてピークに達した。この結果、年間輸出額はリーマン前より多くなった。すなわち、07年の7127億ドルから、10年の7670億ドルに増加し、さらに11年の8208億ドルまで増加したのである。こうした輸出増をもたらした大きな原因は、対中輸出の拡大だ。だから、「円高が日本経済に悪影響を与える」という考えは、間違いである。
第二に、これと対照的に、12年11月頃から円安が進んでいるにもかかわらず、輸出が増えたわけではない。ドル建て輸出額はむしろ減少しているのである。
11年までの輸出の増加も、12年以降の輸出の減少も、ともに相手国の事情によるものだ。
これは、リーマンショック前の円安時と違う点だ。当時は、とくに米国の輸入が増大したので、日本のドル建て輸出も増大した。今回はそのような拡大効果がない。他方で、後で述べるように円安は生産コストを引き上げている。したがって、経済活動が拡大せずに物価だけが上昇するというスタグフレーションに突入する危険がある。
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