「寝てない自慢」をする人を襲う健康リスク 「忙しいの、慣れちゃったよ」は脳の故障だ

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それだけでない。事態はもっと深刻である。ショート・スリーパーを自負する人は、単に前頭葉の「疲れの見張り番」が故障しているだけと考えられるのである。

死ぬほど疲れているわけではないのに過労死する理由

拙著『残念な職場』でも述べた、いわば「ショート・スリーパーの罠」ともいえる現象だが、恐ろしいことにこの現象、過労死と密接な関係がある。

1990年代に過労死が社会問題化し、過労死が“見える化”したことで、彼らの多くが「死ぬほど疲れている自覚がない」ということがわかってきた。死に至るほどの無理をしているのに、なぜ危険性が自覚できないのか。その謎を解明するためにネズミで実験を行ったのが「疲労研究班」である。

「疲労研究班」は、20以上の大学や機関の研究者で構成された旧文部省主導の研究会で、1999~2004年にわたってさまざまな研究を行った。その中の一つが、「ネズミの過労死実験」だ。

研究班は、ネズミを10日間、毎日水槽で30分間泳がせることで、「働き続けるメカニズム」の解明を試みた。ちなみに、ネズミはおぼれることなく必死で30分間泳ぎ続けることが可能である。

1日目。仕事=水槽で30分泳ぎ続ける。その後、ネズミは疲れ果てた様子で、ぐったり寝てしまい1時間ほど起きてこなかった。

2日目。この日も初日同様、仕事のあとは1時間程度、寝入ってしまった。

3日目。ネズミの行動に変化が起きる。仕事後は初日、2日目と同じように寝てしまうのだが、40分程度で起き上がった。

7日目。3日目以降、徐々に減り続けた睡眠時間が、わずか5分と急激に減少した。

……そして、

10日目。ネズミに劇的な変化が起きた!

30分泳ぎ続けるという過酷な“労働”を終えたネズミは、寝ることもなく平然と動き始めた。過酷な労働に耐えられる“スーパーネズミ”が誕生。

10日間の過重労働を経験することで、「疲れても働き続ける」ネズミが出来上がったのだ。

「やっぱりね! ネズミも鍛えられるんだね」

いや、違う。“スーパーネズミ”は、泳ぎ続けたことで筋力がついたとか、体力がついたことで誕生したのではない。

脳の中にある「疲れの見張り番」と呼ばれる、危険な状態になることを防いで安全装置の働きをする部分が機能しなくなった結果、誕生したのだ。

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