「赤報隊事件」30年、謎はどこまで晴れたのか いまだに犯人は闇の中ではあるが…
本書『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』の刮目すべきところは、朝日新聞の暗部もまた、隠さずに書いているところである。取材対象である団体から金銭を受け取っていた編集委員が存在したことを書き、また部外秘の朝日新聞社長の回想録の一部を明らかにしつつ朝日の組織としての判断についても批判している。
“書き残すべきことを、すべて書く。”
けっして頑丈なものではない「自由な社会」
読み終えても決して読後感は「すっきり」しない。だが、真実を追い求めるということは、このすっきりしない、もやもやした思いに耐え続けることなのだと思わされる。「真実」は分かりやすく、すっきりと溜飲を下げてくれるほど親切ではないのだ。未だ犯人は闇の中だが、諦めることを知らずもがき続ける精神の強靭さを、本書に見た。
著者の他にも、記者や元記者たちの何人もが、それぞれの視点でいまなお事件を追い続けているという。あの赤報隊を「義挙」と呼び言論を暴力で封じることへの正当化が、街中で堂々と叫ばれる世の中である。自由な社会はけっして頑丈なものではなく、忘却や知的怠惰によっていとも簡単に崩れてしまう。そのことをよく知る人々が、いるのである。
先ごろ放送された『NHKスペシャル・未解決事件File.06「赤報隊事件」』では、本書の著者・樋田記者役を草彅剛さんが演じた。ドラマの放映に際して草彅さんが寄せたコメントが、帯に書かれていた。
“阪神支局事件が起きた時、僕は中学生でした。事件について知らなかったのですが、知れば知るほど、自由にモノが言える、自由な社会とは何か、考えるようになりました。”
朝日新聞では毎年、新入社員の研修で「赤報隊事件」について学ぶ時間を設け、著者も講師役を務めてきたという。新聞記者としての覚悟と矜持。あの言論の自由に向けて放たれた、あの銃弾の意味。あれから30年以上経ち、著者も退職する年齢となった。次の世代へ、どう伝えていけばいいのか。どう残していけばいいのか。この本が一つの答えである。
若い世代はこの本をどう読むのだろう。そして私は。5年後に、あるいは10年後に、もう一度この本を読んだら、その時に何を感じるだろう。その時、時代はどうなっているのだろう……。
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