39歳「工場夜景」に鉱脈を見た男の痛快な稼業 元保育士はこうしてプロカメラマンへ転じた

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現場は、大阪・寝屋川流域の排水施設の工事現場だった。豪雨の際に、水を逃がすための分水マンホール、増補幹線を作る大掛かりな工事だ。今回は、記録撮影をするために呼ばれたという。大阪府の職員に導かれ、緊張しながら工事現場に入る。

工事はかなり進んでおり、現場には垂直方向に巨大な穴が掘られていた。

小林さんは自動車から撮影機材を下ろし、ドローンを組み立てる。

「インスパイア2というマシーンです。本体、カメラ、予備電池など合わせて80万~90万円くらいかかっていますね」

大阪の地下施設(撮影:小林哲朗)

リモコンでスイッチを入れると、ローターが回り、砂ぼこりが舞う。ドローンはススッとキビキビした動きで宙を舞う。そして穴の真上に移動し、撮影を始めた。

工事現場を見る機会はあるが、真上から見る機会はそうそうない。真上から見た工事現場は、幾何学的でとても美しかった。現場で働いている人たちも、感嘆の声を上げていた。

その後、マンホールから地下に降りて、まるで巨大なラビリンスのような廃水処理施設の撮影を続けた。

小林さんは実に楽しそうに写真を撮る。

好きなモノじゃないと、かっこよく撮れない

「写真って好きなモノ(被写体)じゃないと、かっこよく撮れないんですよ!! 工事現場に興味がない人がいくら撮っても、全然面白くない写真になるんです」

工事現場に興味がない人がいくら撮っても、全然面白くない(撮影:小林哲朗)

地下迷宮の撮影を終え、外に出た頃にはすっかり夕方になっていた。

移動する自動車の中で、幼少期からのお話を伺った。

「母が沖縄出身だったので、出産だけは沖縄でしました。その後はずっと兵庫県の尼崎市で育ちました」

4人兄弟の2番目だった。小さい頃はあまり自覚がなかったが、高校生くらいになって、「うちは貧乏なんやな」と気づいたという。

「親父が本当にダメな人なんですよ。中学生くらいからフェードアウトしちゃったんですけど……」

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