<藪を突き抜けた勢いで、うっかりあと1歩踏み出していたら終わりだった。(略)なぜなら、右に見える路面には、それを支える地面がまるで存在しなかったから。宙ぶらりんなのだ。足を踏み込んだら突然板チョコのようにポッキリ割れて、あと100m残っている海岸までの落差を身に刻みつけながら、とても呆気なく人生の締め括りを迎えていたかも知れないのだ。……こういうことがあるから廃道は恐い。(東京都道236号青ヶ島循環線 青宝トンネル旧道レポートより)>
使われなくなった道を踏破するオブローダー
使われなくなった道のことを廃道(obsolete road)という。その廃道を好んで探索する人はオブローダー(ob-roader)と呼ばれる。今回インタビューした平沼義之さん(40歳)は日本のオブローダーの第一人者として知られる人物だ。ハンドルネームは「ヨッキれん」。2000年から続く廃道探索レポートサイト「山さ行がねが」の読者にはこちらの名前のほうが通りはいいかもしれない。2018年1月に累計4000万アクセスを突破した老舗サイトだ。
図書館などで見つかる古地図などの情報を頼りに廃道や廃トンネル(廃隧道)を探し、トレッキングに近い装備で山や谷に分け入り、使われなくなった道を踏破する。現場の空気感が伝わる綿密なテキストと写真で読者に探索のスリルを味わわせる。このスタイルは20年近く変わらない。
およそ10年前、平沼さんは廃道探索のために秋田から上京してきた。その頃に別媒体でインタビューした時、「人生を廃道歩きにかけている」と話していた。そして現在。当時と同じアパートを拠点に廃道探索一本で生計を立てている。ニコニコと楽しそうに廃道巡りを語る様子はあの頃と同じで、やつれも屈託もない。
潤沢な資金があるのか、はたまた能天気なのか。違う。平沼さんは「ニッチな趣味で食べていく」という簡単にはいかない道で充足するための術を意識的に身に付けている。だから上京した頃のままなんだと、10年ぶり2度目のインタビューをさせてもらって気がついた。この術は、もしかしたらあらゆる職業に役立つものかもしれない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら