40歳「廃道」に鉱脈を見出した男の快活な人生 「嫌」を極力排除し自分だけの道を突き進む

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変化に対して鷹揚な背景には、自らの価値を間断なく見つめる冷静さがある。自らを甘えた逃げる人間と評するのもそうだし、廃道レポートというコンテンツの評価分析にしてもそうだ。

「廃道探索には前述のような独特の魅力があって、私は今のところはすごく楽しい情報発信ができているという自負があるんですよ。代えが利かない魅力があれば、それをどうおカネに換えるかが変わってもどうにかなる。だから、将来稼げなくなるという心配もしてないです」

この代えが利かない魅力を維持するのは、自らが持つ廃道へのモチベーションしかない。

『国道? 酷道!? 日本の道路120万キロ大研究』(筆者撮影)

これまで廃道へのモチベーションが減衰したことはない。それは自然にそうなったわけではなく、周辺にまとわりついてくる「嫌」を意図的に取り除いてきたからだ。探索した順番ではなく気が向いた順にレポートを書くのものそうだし、プレッシャーや公開範囲の狭さを伴う同人誌をやめたのもそう。アフィリエイトという、記事に対する直接的な対価ではない手法を基本の収入源にしているのもそうだ。

モチベーションの敵になるようなものは極力排除する

読者の声も過度には追いかけない。「山さ行がねが」や公式ツイッターに届くコメントには目を通すが、それ以上を追うとネガティブな反応に気がめいったり、他の廃道サイトの情報が入って心がザワザワしたりするリスクが高まるから触れないままにしている。とにかくモチベーションの敵になるようなものは極力排除して、ストレスなく廃道に相対するように細心の注意を払っているわけだ。

「モチベーションが維持できなくなったら、何も生み出せなくなってしまいます。山にも行く気力がなくなって、モノも書けなくなる。そうしたら私は本当に食べていくすべがなくなります。私は常々廃道に行き続けて、燃料を補給し続けないといけないわけですよ。自分にも読者にも対価を与え続けないといけない」

この後何年も生きていくためには、将来への不安に目を向けず、今ある気力を全力で守る。矛盾しているようで矛盾していない。この徹底したモチベーションコントロールこそが、10年前と変わらない、平沼さんの屈託のなさの源なんだと思った。

平沼さんは80歳になっても廃道探索を続けたいという。

「廃道に行けなくなったら生活保護一直線ですしね。まともな社会人経験が数年間のコンビニエンスストアくらいしかない人間が、今さら別の道を選ぶことはできないですから(笑)」

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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