40歳「廃道」に鉱脈を見出した男の快活な人生 「嫌」を極力排除し自分だけの道を突き進む

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週1ペースで廃道を巡り、文献を調べながら日に4時間かけてレポートを書き上げる。探索した順番に手を付けるのではなく、興が乗ったものから記事化していくのが信条だ。空いた時間には昔ほどは勝てなくなったスロットを回しに出掛ける。そんな生活を1年近く続けていくうち、預金通帳の残高は80万円ほどになっていた。

そこで底を打ったのは幸運でしかなかったと振り返る。

「アフィリエイト広告を貼るようになって少しずつサイトから収入が得られるようになってきたことと、NHKから取材されたりしてメディアから取材してもらうことがちょくちょく出てきて。書籍のお仕事もいただけるようになったのが大きいですね」

同種のサイトの追随を許さなかったからこそ

スロットでの勝ちに頼れなくなってサイトの人気を収入にする方法を取り入れた時期と、水面下で蓄積していたサイトの評価が表に出てきた時期がうまく重なった。2000年代後半特有の、個性的な個人サイトの書籍化やメディア進出が目立った時代背景も無視できないだろう。廃道は個人サイトという新しいサブカルチャーの泉から汲み上げられた新コンテンツとして扱われた。2000年前半に興った「廃墟ブーム」や、鉄道趣味の1ジャンルとして長く定着している「廃線趣味」とはまったく別の文脈だ。

そこで平沼さんが第一人者とみなされたのは運ではない。7年以上もクオリティの高いレポートをコンスタントにアップし続けて、同種のサイトの追随を許さなかったからだ。大抵のサイトは画期的な切り口であっても1年と更新が続かない。発足時かそれ以上の密度と品質でコンテンツを生産し続けるのは、いつの時代でもほんのひと握りだ。

当初アフィリエイト収入は月に1万円いかない程度だったが、広告の品が売れて報酬が入るタイプだけでなく、広告クリックが直接報酬になるタイプも加えたら数段アップした。その頃アクセス数は1日7000近くに達し、数値の伸びは同人誌の売り上げにもつながった。廃道の魅力を知った新規読者はサイトから同人誌の存在を知って、バックナンバーもまとめ買いしてくれる。1部400円のPDFファイル。在庫リスクは一切ない。

ピーク時は400~500人の購読者がいて、毎月発行するたびに仲間と割っても十分な収入になった。それに加えて、編集者と書籍の企画を膨らませたり、『廃道ナイト』(東京カルチャーカルチャー/2009年~)などのイベントを主催したりするなど、積極的にコンテンツを育てていったことも見逃せない。人付き合いが嫌いなのは変わっていないが、廃道の魅力を伝えることに関してはモチベーションがいくらでも湧いてきたという。

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