自分の無知を自覚していない人が残念なワケ 本当は知らないくせに知ったかぶりする危険

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さまざまな出来事はあとから振り返ると必然に思えるというグールドの指摘は、人間の無知に対する深い洞察と言える。物事はどのようにして起こるのか、私たちはまるでわかっていないのだ。

無知を自覚して世界一にのぼりつめたヘッジファンド

ここまで、私たちが驚くほど無知であること、自分で思うより無知であることを見てきた。また世界が複雑であること、私たちが思うよりずっと複雑であることも見てきた。ならばなぜ、これほど無知な私たちは、世界の複雑さに圧倒されてしまわないのか。知るべきことのほんの一端しか理解していないのに、まっとうな生活を送り、わかったような口をきき、自らを信じることができるのか。

それは私たちが「嘘」を生きているからだ。物事の仕組みに対する自らの知識を過大評価し、本当は知らないくせに物事の仕組みを理解していると思い込んで生活することで、世界の複雑さを無視しているのである。実際にはそうでないにもかかわらず、自分には何が起きているかわかっている、自分の意見は知識に裏づけられた正当なものであり、行動は正当な信念に依拠したものであると自らに言い聞かせる。複雑さを認識できないがゆえに、それに耐えることができるのだ。

みなさんも小さな子どもが「なぜ」「なぜ」と繰り返し質問し、聞かれた大人が最後には「だからそういうものなの!」と会話を打ち切る場面を見たことがあるだろう。子どもは物事が複雑であること、何かを説明しようとすると次々と新たな疑問が湧いてくることを、なんとなくわかっている。「説明深度の錯覚」は、大人が物事は複雑であることを忘れ、質問するのをやめてしまったことに起因するのかもしれない。探求をやめる決断をしたことに無自覚であるために、物事の仕組みを実際より深く理解していると錯覚するのだ。

あらゆる意思決定に際して細かな情報をすべて理解するのは現実的ではないが、少なくとも自らの理解に欠落があることを認識しておくのは有益である。金融業界においては、自分が何を知らないかを知っていることが、投資家としての成功をもたらす場合もある。

『知ってるつもり――無知の科学』(早川書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

これはヘッジファンドのブリッジウォーター・アソシエイツの創業者で、最高投資責任者の一人であるレイ・ダリオのアドバイスだ。

「私が成功した理由は、知らないことへの対処方法にある。私は自分の考えのどこが誤っているかを考える。反論してくれる人間に会うと、うれしくなる。物事を彼らの視点から見て、これは正しいのか、間違っているのかと考えることができるからだ。このような学習経験によって知識が深まり、より良い意思決定につながる。このように、知っていることより、知らないことに対処することのほうが大切なのだ」

自分が知らないことを自覚することで、ダリオはコミュニティを活用するすべを身につけた。これがきわめて有効な戦略であったことは明らかだ。ブリッジウォーターは現在、世界最大のヘッジファンドとなっている。これはあらゆる意思決定を下すときに参考にすべきアドバイスだ。

スティーブン・スローマン 認知科学者

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Steven Sloman

ブラウン大学教授(認知・言語・心理学)。Cognition(認知)誌の編集長を務める。

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フィリップ・ファーンバック
Philip Fernbach

コロラド大学リーズ・スクール・オブ・ビジネス教授(マーケティング論)。

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