自分の無知を自覚していない人が残念なワケ 本当は知らないくせに知ったかぶりする危険
「わかっていないことがわかっていないこと」に悩まされるのは、軍事戦略家だけではない。それは誰もが向き合わなければならないものだ。株式取引に本質的にリスクがともなうのは、いつなんどき大事件が起きて市場が暴落するか、誰にもわからないからだ。
2011年、巨大地震とその後の大津波に襲われた日本では、主要な株式指数である日経平均が17.3%下落した。「わかっていないことがわかっていないこと」はときに悲劇あるいは幸運(裏庭で宝物が見つかるなど)となって立ち現れ、家族の暮らしを一変させることもある。どれだけ知識があっても、わかっていないことがわかっていないことを予想することはできず、しかもそれは頻繁に起こる。
説明しようとしてはじめて無知を自覚する
人間がいかに「わかっていないことをわかっていないか」を明らかにする実験を、われわれは行った。
実験ではさまざまな政治問題について人々に説明を求めた。被験者には実験当時(2012年)に注目を集めていたさまざまな政策について、賛成か反対かを尋ねた。たとえば以下のような政策について質問をした。
・二酸化炭素排出についてキャップ・アンド・トレード制度(政府が企業に排出枠を割り当て、その一部を他の企業と取引できる仕組み)を導入する
・イランに対して一方的に制裁を科す
・社会保障制度上の退職年齢を引き上げる
・国民皆保険制度を導入する
・教師に対して能力給を導入する
まずは被験者にその問題に対する自らの理解度を7段階で評価してもらった。続いてその政策を実施した場合のさまざまな影響を説明してもらった。
たとえばキャップ・アンド・トレード制度についての設問は次のような文面だった。「二酸化炭素の排出に対してキャップ・アンド・トレード制度を導入した場合の影響について、最初の段階から最後の段階まで順を追ってできるだけ詳しく説明してください。またそれぞれの段階の因果関係についても説明してください」。そして最後にもう一度、問題に対する理解度を評価してもらった。
被験者の説明能力は、かなりお粗末だった。ごくわずかな例外はあったものの、政策の仕組みについて説明を求めても語れることはほとんどなかった。説明できるほどには理解していなかったのだ。