ティム・クック氏が説く「倫理教育」の重要性 独占インタビューで語った「未来の教育」
ーーAI(人工知能)の台頭はあらゆる価値を変えると思っていますが、そうした時代にどういう教育的価値が重要になるとお考えですか。
クック:AIもそうですし、本日の発表にあったAR(拡張現実)も非常に大きな変化で、ゲームチェンジャーになると思います。どちらも現在、すでにある程度、使われ始めていますが、今後、指数関数的に使われることが増えてくると思います。じゃあ、そうした中でどういう価値が大事か。まず1つに「倫理」を学ぶことは大事だと思います。
大学入学や修士課程に進むのを待たずに、もっと早い段階から、いずれコンピュータが我々人間のように思考し始めるのだとしたらどうしたらいいかといった討論を始めるべきだと思います。そんな時代は、もう少し先のことではありますが…。
ただ、今がまだこうした技術の出発地点だからこそ、技術が人間性から乖離(かいり)した形で発展するのを抑え、むしろ双方を近づけることも可能だと思います。あまり他の人からは聞かない意見かも知れません。こうした技術の発展にどのようにすればヒューマニティを植え付けることができるのか、その可能性を探り、理解することが大事だと思っています。
AIの技術そのものはうまく使えば、不治の病と思われていたものを治療する方法を生み出したりと信じられないような成果を生み出すでしょうし、その良いポテンシャルは無限に広がりますが、それらすべてには「正しく使われれば」という条件が付きます。ARも同様に人間が本来持つ能力を拡張し、我々の対話をより豊かなものにするなどの可能性を秘めていて、殻の中に閉じこもってしまうVR(仮想現実)とは一線を画す可能性を持っています。
我々はAIもARも重要な技術と捉えており(iPhoneのOSの)iOS 11にはARkitやCoreMLといったARやAIアプリの開発を促す仕組みを搭載しつつ、バイオニックチップという半導体(ハードウェア)レベルでも、そのためのサポートを行っています。これら2つの技術は子供達だけでなく、全人類、全地球に影響を及ぼすものです。
数学と科学ばかりをやっていてはダメ
ーー子供にどういう教育を施すかは親の判断で、教育は非常にパーソナルなものでもあります。クックさんにはお子さんはいらっしゃいませんが、度々、他のインタビューなどで甥っ子さんがいらっしゃり非常にその教育を気にかけている様子を伺っています。最後の質問になりますが、クックさんの甥っ子さんに対する教育方針はどのようなものでしょう?
クック:ここまでで話してきたことの繰り返しになるかも知れませんが、彼には日頃から得意な数学と科学ばかりをやっていてはダメだと言っています。何故なら人々にキラメキを与えるのは、こうした異なる学科の接点にあるものだからです。なので、彼ができるだけ、そうした機会に触れられるように背中を押しています。
毎年、夏場はサマーキャンプに参加させて、彼が決して得意ではないことにいっぱい触れられるようにしています。昨年はモック・トライアル(学生同士で行う擬似裁判)に参加させました。昨年、彼は7年生(日本の中学1年生)だったのですが3週間かけて行われる擬似裁判に参加させました。裁判のための資料集めも彼にとって経験のない大変なことでしたし、裁判所での弁論にはスピーチの技量が必要とされます。スピーチは社会に出ると非常に重要なスキルですが、私が学生だった時代、学校はこうした技能の教育に力を入れていませんでした。
どのように弁論を進めるかを考えたり、誰か他の人の視点になって真剣に考えるというのは彼にとっても良い経験になったのではないかと思いますし、彼はその中で大変よくやったと思います。もちろん、最初は「なんでこんなことをやらせるんだ。と思ったでしょうがね」(笑)。私は教育における多様性を重視しています。そして1つの分野に閉じこもらず、大きな全体像を見る目を磨くことを。
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