年金不安解消のカギはマクロ経済スライドだ フル発動で将来世代の給付水準にプラス効果
法律の規定により、5年に1度、公的年金の財政状況や見通しを点検する公的年金の財政検証が行われる。2019年の検証結果公表に向け、社会保障審議会で「年金財政における経済前提に関する専門委員会」が議論を始めた。検証を行ううえで、将来の経済成長率や物価上昇率、賃金上昇率などの前提をどう置くかを決めるためだ。
前回2014年の財政検証では、経済高成長のケースAから経済マイナス成長のケースHまで8つの経済前提を置き、検証結果を公表。最も注目される将来世代の所得代替率(現役世代の賞与を含む収入に比べた年金給付額の割合、標準世帯の場合)見通しでは、最高でケースCの51%から最低でケースHの35~37%まで、大きなばらつきが見られた。政府は50%を必要最低水準と見ているが、それより15%程度低い検証結果も含まれたことで、「今後の日本経済の成長次第では年金水準はそうとう厳しくなる」との不安を日本国民に与える結果となっている。
マクロ経済スライドをフル発動すべき
ところが、ある改革が行われれば、こうした経済成長次第で所得代替率が大きく下がる不安をほぼ解消できることをご存じだろうか。その改革とは、「マクロ経済スライドのフル発動化」だ。
マクロ経済スライドとは、人口動態に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組みで、現在の高齢者と将来の高齢者の給付のバランスを変えるものだ。マクロ経済スライドを早く発動していけば、その分、将来世代の給付水準が増えるが、発動が遅れるとその分だけ現在世代が将来世代の取り分を食ってしまうため、将来世代の給付水準が低下するという構造になっている。
少子高齢化に対応して2004年の年金制度改革で導入されたマクロ経済スライド。だが、実態は2015年度に1回実施されたきりだ。理由は、マクロ経済スライドによる調整は、年金給付の前年度の名目額を下回らない範囲でしか行えない「名目下限ルール」があるからだ。物価や賃金の上昇率が低かったりマイナスだったりする低インフレ・デフレが長期化しているため、この名目下限ルールが引っかかってマクロ経済スライドを発動できない状況が続いている。
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