年金不安解消のカギはマクロ経済スライドだ

フル発動で将来世代の給付水準にプラス効果

5年に1度の財政検証を行うたびに将来の所得代替率見通しは低迷したが、その大きな理由はマクロ経済スライドを発動できなかったからだ。2016年の法改正で、賃金、物価が十分に上昇した年に、過去の未調整分もまとめて調整する仕組みが導入されたものの(2018年度から)、このキャリーオーバー制度も名目下限ルールの範囲内でしか行えず、その効果の限界が指摘されている。

このように将来の所得代替率を大きく左右するのは、マクロ経済スライドがスムーズに発動されるかどうか。そして、それを決めるのは、物価や賃金の上昇率だ。財政検証において専門委員会まで設置して、将来の経済成長率や物価・賃金上昇率などの前提を決める作業を行っているのは、マクロ経済スライドの発動状況を検証することが大きな目的となっているといえる(後述するように、ほかにも要因はある)。

では、マクロ経済スライドがフル発動化されるとどうなるか。フル発動では、名目下限ルールは撤廃され、低インフレ・デフレ下で年金給付の名目額が減る形になってもマクロ経済スライドは実施される。つまり、どんな経済前提を置こうとも、マクロ経済スライドは毎年実施されていくため、発動状況の違いによる将来の所得代替率の違いは生まれないことになる。

実際、前回2014年の財政検証では、マクロ経済スライドのフル発動化が実施されると、将来の所得代替率がどう変わるかのオプション試算結果が示された。それによると、同じ人口要因の前提となっているケースC、Eの所得代替率がそれぞれ50.8%、50.2%から51.2%、51.0%に、同様にケースG、Hの所得代替率がそれぞれ39.5%、35~37%から44.5%、41.9%に上昇する。すべての所得代替率が向上するほか、数値のばらつきが減ることがわかる。

経済前提の影響は小さくなり人口要因が浮き彫りに

ただし、経済前提が将来の所得代替率に影響する要因はほかにもある。そのため、仮にマクロ経済スライドのフル発動化が実現しても、経済前提の設定がまったく不要になるのではないことも触れておくべきだろう。マクロ経済スライドのほかで経済前提が影響するのは、年金積立金の実質的な運用利回りと、既裁定年金の物価スライドの部分だ。

これらの説明はテクニカルなため、ここでは避けるが、1つ言えるのは、それにおいては、経済前提の違いが将来の所得代替率に与える影響度合いは、マクロ経済スライドを実施するかしないかにおける違いに比べて小さいということだ。先ほどのオプション試算のケースC、Eを例に取れば、マクロ経済スライド要因の所得代替率の差異は0.4%、実質的な利回りと物価スライドの2要因では0.2%と、2倍の違いがある。

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