スマホ普及で大ピンチ、手帳老舗の生きる道 「働き方改革」とアジアでの文具販売に活路

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ただ、今後も文具業界で成長を続けるのが容易でないことは周知の事実。7代目の藤井章生現社長は「既存事業の延長線上に成長の姿が描きにくくなっている」と危機感を口にする。そもそも同社の売上高のうち、「ダ・ヴィンチ」をはじめとする文具製販事業の構成比率は約1割に過ぎない。残る9割は、主に九州で展開する紙・文具・事務機器卸事業による。新たな事業展開が求められる中で、同社が注力しているのが、OA機器を核とした社内ITソリューションの提案事業と、海外展開だ。

これまでもコピー機などOA機器の販売を手掛けてきた同社だが、今後は売りきりのビジネスモデルからネットワーク構築も含めたITソリューションを提供するビジネスへの転換を図っている。オフィスのレイアウト変更や業務効率化に向けたソフトウエアの選定、セキュリティ体制の構築など、オフィスに関する悩みの「御用聞き」を目指している。

中でも、オフィスレイアウトのコンサル事業は近年盛んな「働き方改革」に関連した引き合いが強い。新しい働き方として「フリーアドレス(個人が専用の机を持たず、日ごとに座る席を変えるといったオフィスの形式)」などを導入したい企業が増えていることが背景にある。

同社は業務の流れを踏まえた導線分析や、最適な業務フローとレイアウトの提案などを担い、そうした企業のオフィス改革を支援している。「商社として幅広い仕入れルートを確保していることで、多様な提案が可能となっている」(レイメイ藤井)という。

また、筆者が日ごろ企業取材を重ねる中で、「人手不足」に悩む企業が、魅力的なオフィスに転換したことで新卒・中途社員の採用状況が好転した例もしばしば耳にする。採用面接時にチラっと見えたオフィスの様子が採用の決め手にもなるのだという。オフィス空間の重要度が高まっている今、この分野で勝負を懸ける同社の戦略は理にかなっていると言える。

子どもが増えるアジア諸国に熱視線

海外展開は藤井社長が最も期待を寄せる事業だ。香港オフィスを2011年10月に開設し、香港を拠点に中国本土や東南アジア諸国・地域で文具販売の拡大を目指している。

アジアには平均年齢が20~30歳代前半である国・地域が多く、今後、子どもの数が増加し、経済成長にともなって教育制度の充実も見込めるため、文具市場には伸びしろがあると踏んでいるためだ。

本社を置く福岡は、東京よりもこれらの国・地域に近い「地の利」もある。オリジナル文具の輸出量を伸ばすことができれば、国内文具市場が縮小しても売上高を維持・拡大する道が拓ける。

2020年には創業130周年を迎えるレイメイ藤井。大正・昭和・平成を生き抜いた九州の雄は、その慧眼を活かし来年迎える新たな時代でも、確かな歩みを続けるだろう。

三好 暁久 帝国データバンク 福岡支店情報部

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みよし あきひさ / Akihisa Miyoshi

1981年横浜市生まれ。金融機関勤務を経て、2008年10月に入社。企業信用調査業務に携わり、2010年10月より現部署。福岡エリアを中心とする九州の企業取材をはじめ、景気動向や業界動向をまとめた「特別企画レポート」などを執筆。与信管理に関する講演なども行う。

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