この国の未来は「川崎市」に凝縮されている 「リバーズエッジ」から見る日本の未来

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だがこの街にはそうした状況を変えようとする人々もいる。彼らに共通しているのは、地元のネガティブな状況をなんとか変えようと奮闘していることだ。その象徴的な存在が、BAD HOPである。

川崎区で1995年に生まれたメンバーを中心に構成されるBAD HOPは、音楽業界でもいまもっとも注目されているグループだ。ギャングが熾烈な抗争を繰る広げるシカゴ南部で生まれたDrill(ドリル)と呼ばれるジャンルに影響を受けた彼らの音楽は、煽り立てるようなトラックにエモーショナルなラップが乗るのが特徴である。

これまでひどい環境から抜け出すには「ヤクザになるか、職人になるか、捕まるかしかなかった」不良たちに、BAD HOPは新たなロールモデルを提示した。そればかりか地元への誇りも与えたのである。いま川崎は、彼らの後に続こうとする子どもたちによってヒップホップの聖地になっている。彼らは自分たちが置かれた環境を、ラップを通じて見つめ直している。

ヘイトデモも地元への誇りを目覚めさせた。この街で生まれ育った者たちが、それぞれのやり方で地元の矛盾と向き合い始めている。

日本の近代化の矛盾を先取りしてきた土地、川崎

その変化は早くも政治の場に反映されている。彼らは地元議員へのロビイングなどを重ね、昨年11月にヘイトデモの事前規制のための新たなガイドラインが策定され、この3月から実施されることになった。まだ抜本的な解決は遠いが、これは大きな一歩だ。

『ルポ 川崎(かわさき)【通常版】』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

川崎はもともと日本の近代化を一身に担ってきた街である。京浜工業地帯の要として戦前は軍需産業を支え、大戦後は経済成長に貢献してきた。その一方で急速な近代化の代償である公害問題にも苦しめられ、長い裁判闘争も行われてきた。いわば日本の近代化の矛盾を先取りしてきた土地だ。その川崎でいま、日本の未来を先取りするかのような現象が起きていることに、私たちはもっと注意を払うべきだろう。

本書の取材のために著者は毎回、自宅から多摩川を渡って対岸の川崎へと赴いていたという。やがて行きつけの店ができ、そこで知り合った友人たちの紹介で次々と取材の輪がつながっていった。そして川崎が馴染みの街になるにつれて、そこで起きている問題が、自分たちの生活と地続きになっていることに気付く。そしてこう呟くのだ。「そもそも、こちらとあちらを隔てる"川"なんてものは存在しなかったのだ」。

最後に一言だけ言わせてほしい。ただし地元の若者風に。

“時代の最先端を知りたければ、リバーズエッジ(川崎)へ行け!そこから俺たちの未来が見えるぜ!”

首藤 淳哉 HONZ
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