ゼネコンを追い詰める資材高、負担増を巡る綱引きの行方

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 「燃料油と建設資材を下げろ! 賃金と単価を上げろ!」

9月12日、東京の日比谷公園から日本銀行そばの公園まで、首都圏の建設労働者がデモ行進した。「漁業組合がデモをやったのを見て、われわれも現状を訴えることで政府に対策を求めたいと思った」と、参加者の一人は険しい表情で語った。

世界的な資源価格の高騰が建設資材費の上昇をもたらし、建設業界を揺さぶっている。マンション市場が急速に冷え込む中、負担増の押し付け合いがそこここで始まっている。

鉄骨として使われるH形鋼の市中価格は、昨年12月の1トン8万円弱から今年7月には13万円弱まで急騰した。鉄筋の材料である棒鋼も同様に、昨年末の7万円弱から足元の市況は11万円台に達している。

背景にあるのは、鉄鋼原料の急激な値上がりだ。高炉メーカーが原料とする鉄鉱石は2008年度に前年度から1・8倍(豪州産粉鉱)に上昇。原料炭に至っては同3倍にハネ上がった。電炉原料の鉄スクラップも、昨年の1トン4万円前後から今年年初から急騰、7月には一時7万円超の史上最高値をつけた(下図)。

とはいえ、建設費用に占める資材価格の割合は決定的に大きいわけではない。鉄筋コンクリート構造のマンションの場合、鉄鋼製品が価格全体に占める割合はせいぜい7~8%。そこに加工賃が含まれても1割に届くか届かないか。よって、マンション販売が好調な間は、ある程度の資材費上昇は通ってきた。しかし、マンションの販売が落ち込み、新興デベロッパーの資金繰りも悪化している昨今、当の電炉メーカー幹部が「棒鋼価格11万円は異常」と言う鋼材高に、不動産、建設業界がついてこられなくなった。

鉄鋼商社幹部は「07年の暮れあたりから、棒鋼の荷動きが鈍化してきた」と証言する。

7月末、歴史的な高値にあったスクラップ価格が急落する。国内価格が上がりすぎたために、これまで日本のスクラップを買いあさってきた韓国の電炉が日本からの調達をストップしたのだ。そこに国内電炉の夏季減産も重なった。スクラップの市中在庫は一気にだぶつき、価格はたった1カ月で3万円台に反落した。

スクラップ価格が下がれば、それを原料とする棒鋼にも下げ余地が出てくる。電炉最大手の東京製鉄は9月販売分の製品価格を3年2カ月ぶりに値下げ、さらに10月分はもう一段の値下げに踏み切った。

だが、同業他社は今のところ、追随する動きを見せていない。「スクラップの値上がり局面で価格転嫁が遅れた分の逆ザヤが残っている。スクラップが下がったからすぐに製品を値下げするわけにはいかない」(別の電炉幹部)。そもそも東京製鉄は棒鋼よりもH形鋼の比重が高く、価格影響力はそれほど大きくない。他社の棒鋼は高値に張り付いたままだ。

このため、今の価格ではほとんど新規の取引は行われていない。建設会社は「新規で買わないから、値下げ交渉はするだけ無駄」。電炉も「値下げしても注文が出ないなら、無理して価格を下げない」。薄商いでの奇妙なにらみ合いが続く。

電炉メーカーが不安視するのは、注文減に耐えられなくなったメーカーが抜け駆けで価格を引き下げること。「値下げしたくないが、スクラップが下がったままだと(値下げは)タイミングの問題」(前出の電炉幹部)。先安感が台頭すれば、一気に電炉メーカーの旗色は悪くなる。

一方、高炉メーカーは強気だ。値下げどころか値上げ意欲を隠さない。高炉が主力とする自動車や造船向けの鋼板は需給が逼迫しており、建設業界向けが低迷しても影響は軽微。何より、高炉が原料とする鉄鉱石や原料炭の価格は年間契約であり、コスト面から値下げ余地がない。そのうえ、鉱山会社の寡占化と中国を中心とした新興国の需要増で来期以降も鉄鋼原料の価格は高止まりが予想される。製品価格を下げたくても、下げられないのだ。

ややこしいのは高炉が主に生産する建材はH形鋼だが、H形鋼の国内トップは電炉最大手の東京製鉄である点。スクラップ下落を受けて東京製鉄がH形鋼のいっそうの値下げに踏み切れば、高炉メーカーも影響を免れない。鋼材価格は右肩上がりが続くのか、調整局面となるのか。はっきりしているのはマンション価格が下落基調にある以上、最終消費者への転嫁は難しいということだ。

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