激化するプライベートブランド工場争奪戦、安値至上主義の行く末
カップ麺、食パン、袋麺……。今、小売りの自主開発商品(プライベートブランド=PB)が、食品メーカーのナショナルブランド(NB)をしのぐ勢いで売れている。PB人気を受け、売り場も様変わり。イトーヨーカドーには緑色の「セブンプレミアム」の商品棚が立ち並び、ジャスコでは赤紫色の「トップバリュ」が一部NBの商品数を凌駕している。
食品メーカーの製造ラインの空きを利用して作られるPB。メーカー側の販促費等がかからないため、NBに比べ価格は1~3割安い。もともとブランド力のない下位メーカーが製造してきたPBは、売れ行き好調を受けて、今や大手メーカーも参入。その知名度も手伝い、PBは日に日にその存在感を高めている。
なだれ込む小売り各社 PBラインは順番待ち
その波に乗って、スーパー各社がPBを拡大させている。セブン&アイは今後2年間でセブンプレミアムを現在の3倍以上の1300アイテムに増やす計画。また、「グレートバリュー」を展開する西友も、前期末1000アイテムを、今期末には1500に広げる構えだ。鉄道系スーパーを中心に構成される八社会でも、PB「Vマーク」で今まで取り扱ってこなかったパンや麺等を、今期中に開始することを明らかにしている。
小売り不況にあって、もはや救世主的なPB。だが最近、こんな悲鳴が聞こえだした。「大手スーパーにマークされ、当社が押さえていたPB製造ラインを奪われてしまった」(中堅食品スーパー)。「競合に妨害されないよう、できるだけ目立たないように販売している」(別の食品スーパー関係者)。PB急拡大の裏に、小売りの熾烈な製造ライン争奪戦が繰り広げられているのだ。
「NBとの価格差がつけばつくほど、PBが売れているようだ」と現状を語るのは、共同仕入れ機構である日本流通産業の岡本雅治食品部部長。原材料高騰に引きずられ、値上げを余儀なくされているNB。PBはそこを突く。イオンでは今第1四半期で「食パンは2・1倍、カップ麺は1・7倍以上、前年に対して伸びた」(豊島正明専務)。それも、昨年から値上げが著しかった小麦製品において、PBの価格優位性が発揮された結果だ。
こうした成功例を目の当たりにし、「安い商品を用意していない店には客が来なくなってしまうおそれがあり、低価格のPBを置かざるをえない」と分析するのはPBを研究する根本重之・拓殖大学教授。小売り各社は、NBよりも安いPB製造へなだれ込んでいる。ある菓子メーカーでは、5年前に比べ、PBの依頼が3割増えたという。また、「ここ半年で、1週間に一度もPB(製造依頼)の電話が鳴らなかったことはない」という菓子メーカーもある。
そこに混乱の予兆が生じる。いくら製造依頼が増えても、PBを引き受けるメーカーにはキャパシティがある。「製造が間に合わないので順番待ちの状態」(アルコール飲料メーカー)なのだ。そこで起こるのが、限られたPB製造ラインの奪い合いだ。特に、一部の商品でその競争は熾烈を極める。
たとえば、かつお節パック。中堅メーカーが多いという業界の特性上、かつお節を製造できる技術は持っていても、PBのような大量発注に対応できる工場は多くない。あるかつお節メーカーと、かつお節パックの共同開発を試みた小売りグループは、「かつお節パック製造の技術開発に成功した途端、それを聞きつけた他の小売りが、こぞってそのメーカーにPB製造を発注してくるようになった。一緒に開発してきた意義がなくなってしまった」と嘆く。
スティックタイプの焼き菓子であるプレッツェルも、競争の厳しい商品。PBの依頼を受けているメーカーは、「ライン数に比べてPBは発注過剰になっている。当然、より採算の取れる条件のいい客先と契約し、他は断っている」という。