激化するプライベートブランド工場争奪戦、安値至上主義の行く末
力関係が逆転 価格優先、品質二の次
小売りと食品メーカーの力関係は今まで、店舗という販売チャネルを持つ小売り側が圧倒的に優位だった。しかし、PB飽和状態の現場では、その力関係が逆転している事例も見られるようになった。
「従来は必要なときに必要な分だけ、PBをメーカーに発注していたが、今はそれが変わってきた。以前は発注期間が1カ月ごとだったものが、半年や1年先まで発注予約をすることもある。海外と取り合いの激しい水産物を原料とするPBは、来年12月の分を今年3月に予約発注した。来年まで売れるかどうかわからないが、そうしないと(メーカーに)作ってもらえない」。ある食品スーパー関係者の声は切実だ。
またそれまでは、価格や原材料、品質など、小売側はPB商品に対し事細かく要望してきたが、そこにも微妙な変化が現れている。
「まずはできるものを出してくれ、という依頼姿勢が増えた」(菓子メーカー)という。さらにイオンでも、「(PB)需要が高まったこの半年は、設備投資をお願いする場合、イオントップバリュ(トップバリュを統括する会社)の社長とともに、メーカーの役員会に出向き、採算や投資案件の説明をし、お願いする」(堀井健治・イオントップバリュ商品本部長)ほどだ。メーカーからの信頼獲得に小売り各社が奔走している。
小売りは品質を重視した中高価格帯のPBも持つ。だが、売れ筋を強化するほど、低価格PBの比重が高まるジレンマを抱える。その中で一部には品質への譲歩も出始めている。「この価格でできるなら、味はどうでもいいから作ってみてくれ、という商談もあった」と、あるパンメーカー幹部は打ち明ける。
国産小麦使用と誇らしげにパッケージ表記する某PBクッキー。小麦粉は北海道産だ。だが、同様のNB品なら当然のように使用されているバターが、ここでは、バターの5分の1の価格の人工油脂、ショートニング。「小売りが求めているのは何より価格。その価格を実現するには、NBと同じ原材料では不可能」(菓子メーカー)。「国産」を前面に出し高品質らしさをうたいながら、見えないところで品質を下げ、採算を確保する商品がにわかに増えている。
ある食品メーカー担当者は「(小売りは)味よりも表示を優先した差別化を依頼してくる。どこそこの塩使用とか、国産小麦使用とかをうたうことに執着している」と吐露する。
PBが“価格ありき”でメーカーに発注されれば、メーカーは原材料の値上げの都度、PB製造の作業工程を短縮し、当然スペックは落とし、場合によっては原材料のランクを下げる。それを容認する小売り側には、たとえ品質を落としても「低価格でないと、どんなにいい商品でも手に取ってもらえない」(大手スーパー幹部)という読みがある。
しかしこのまま低価格に固執し、品質低下が露骨に進むようなら、PB全体のブランドイメージを低下させ、活況のPBもあっけない終息を迎える結果になりかねない。