このことを考えるためには、北朝鮮問題の背景をしっかり分析する必要がある。今日の北朝鮮中枢には「核保有を貫徹しないと、崩壊したリビアのカダフィ政権の二の舞いになってしまう」との恐怖がある、とされる。
この発想は、現状維持を旨とする北朝鮮の官僚機構の発想の側面が強く、金家の哲学とは一致しないのではないか。官僚による外交は限界が伴いがだが、その点を理解している官僚国家は少ない。巨大官僚国家でありながら、例外的に外交上手と定評があるロシアは、官僚らしからぬ独特の交渉スタイルで知られる。このロシアのようなスタイルが、北朝鮮の官僚組織でも採用されているとは、到底、考えにくい。「無名な特使の派遣」という交渉術がモノを言う余地はそこにある。
核放棄という中軸テーマにも力を発揮
「北朝鮮への米国特使」というと、誰でも、ジミー・カーター元大統領を思い浮かべる。そのカーター氏は、「米メディアがトランプ大統領を非常に不公平に扱っている」と明言し、それに対してトランプ大統領は、カーター氏に丁重にお礼を述べる一方で、カーター氏の北朝鮮訪問に関しては否定的考えを示唆した。
今後、「特使」が選ばれる際には、パワー・セレブ的な特使外交ではなく、地に足がついていて、しかも、非常に幅広く、柔軟な交渉ができる「無名」の人物が選ばれる可能性がある。かつて冷戦時代の米ソ軍縮交渉で、米国政府の特使として、ニューヨークの法律事務所のワシントン代表の弁護士が選ばれ、対ソ交渉にあたったことがあった。
金正恩氏の北朝鮮における権力掌握は絶対的であり、それだけに「無名」や「地味」を武器にした特使のほうが、幅広く柔軟な話を展開できる。たとえば、金正恩氏や家族に対して、「礼」を失することなく、人生の選択として、将来何かあったときの亡命などによる「第2の人生」といったテーマまでも、地に足のついた交渉者なら自然に語ることができる。
いわば「無名」の強みである。そうした余裕のある幅広い会話の中からこそ、北朝鮮の核放棄という中軸テーマが自然に力を発揮してくるのではないか。金正恩氏は、今後、トランプ氏との直接の電話会談の機会があり、その頻度を増せば、幅広く「聞く耳」を持つようになる可能性もゼロではないだろう。
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