大きな組織の中に身を置きながら、自分がやりたいと思ったことを次々に具現化してきた小国さんは、組織を辞めなくてもやりたいことを実現するためのコツを教えてくれた。
「もしやりたいことができなくても、組織から“飛び出す”必要はありません。私も外に出て初めて実感することができましたが、組織に所属しているとさまざまなメリットがあります。
最終的に組織に貢献できるのであれば、いい意味で、自分が所属している組織のリソースをしゃぶりつくしたほうがいいと思うのです。だから、やりたいと思うことがあったら、飛び出すのではなくて、まずは上手に“はみ出す”ことから始めてみるのがいいと思います」
明らかに組織から「NO」と言われるのがわかっていることをやろうとするのではなく、まず「これくらいなら大丈夫かな?」と思えることを小さく試してみる。それでうまくいけば、もう少しはみ出してみる。そうやって、少しずつ少しずつ新しい仕事に対する組織の許容範囲を広げていくことを小国さんは提案する。
「前例がないことに取り組むにはリスクが伴うわけですから、どこの組織だって奨励したくないと判断するのは当然です。ですから、いきなり大胆に飛び出すのではなく、軸足を残してもう片方の足だけはみ出して新しいことにチャレンジしてみればいいのです。
バスケットボール用語で言うと、“ピボット(片足を軸にして、もう一方の足を踏み出す動作)”です。そうして、個人として過去にない経験をすることができれば、そこで学習したことをやがて組織に還元することができ、組織と個人がWIN-WINになると思っています」
小国さんはNHKの職員になって以来、ずっと「NHKの小国」になるのではなく、「小国がNHKにいる」と言われるような存在になりたいと思って行動を起こしてきたという。誰しも長年1つの組織の中で生活していると、つい同質化しがちだ。だからこそ、意識的に外に出て、自分とは異なる人たちと出会い、刺激や学びを吸収しながら自らのオリジナリティ(独自性)を高めていくことは、回りまわって組織に多様性をもたらすことにもなると小国さんは考える。
人生は有限だ
そうは言っても、ルーチン・ワークに追われる日々を思うと、実際にやりたいことをやるのは難しいとあきらめてしまう人は少なくない。ではなぜ、小国さんは妥協せず、頭の中に思い描いたことを実現させ続けることができるのだろうか。
「心臓病で死を身近に感じた体験は大きいと思います。本当に人生は有限だということを痛感させられました。だったら、生きているうちにやりたいことをやってやろうと思えるようになりました。そして、世の中をもっとよくすること、世界に数あるソーシャル・イシュー(社会課題)の解決に一歩でも近づくに取り組みに力を注ぎたいと考えるようになったのです」
人の命には限りがある。何も行動を起こさなくても、時計の針は時を刻み続ける。挑戦したほうがいいのは頭ではわかっているけれど、実際に行動を起こすとなると不安になるものだ。
でも、ちょっとはみ出すくらいなら、そんなに大きな勇気はいらない。やりたいと思ったら、まず小さくやってみればいい。うまくいったら、もっとはみ出せばいい。小国さんは、一度きりの人生を悔いの残らないものしたいと思っている私たちの背中を押してくれるように思う。
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